私のジャンプした手にボールが落ちてくる、目の前では唯一パイセンがAクイック、トス待ちで空中で止まっているよう……。
クイックの腕の振り下ろしのタイミングに合わせて、正に今発射しようとする2枚のブロックをあざ笑うように、左手でボールをはたき込む。
ツーアタック!
トンッと軽く響かせてボールは転がる。
試合場が湧く。その熱に乗って睦美が眼を潤ませて見つめてくる。そんな中、唯一パイセンがそっと近寄って来たのなら、私に一言。
「菜々、バレーは数学とか物理とは違うわよ、忘れちゃだめよ」
その言葉に四葉先輩を顧みる。私の表情は相変わらずのスマイルスルー。四葉先輩は負けず嫌いだ。ついさっきドシャットされたスパイク……。すぐさま私は表情を正す。
この一本は、スパイカーに打たせるべきだった……。
「……でも……ナイス、ツーよ!!」
唯一パイセンのキュートな笑顔が私を褒めてくれる。監督よりもホッと落ち着かせてくれるキャプテンシー。
完全にノーマークだった“ツー”。得点の確率を考えれば正しい選択だったのかもしれない。睦美が感心してくれたかしれない。でもサーブ&ブロック主体のチームにブロックから逃げたような選択はベストではない。味方の士気に関わる。それは目先の1点よりも大事な大局……。例えもう一度ブロックに掛かろうとも、トスワークとスパイクで勝負すべき1本。
***
「そんな弱気なトス回しじゃダメだ! じゃんけんで連続3回グーを出すほど強気で攻めろ!」
「レフトが決まらなかったからライト。ライトが外したからセンター。速攻が読まれたからまたレフトを頼る。後手後手のトス回しじゃ味方の士気にも関わる」
「そんなんだからトスが読まれるんだッ」
お姉ちゃんはいっつもキツイ……なにも試合途中、コートチェンジの最中に言わなくったっていいじゃない……。
そして試合は負けた……。
悔しさで涙を噛む先輩がいる中で、私は茫然自失、現実逃避状態。先輩たちの悔しさから、敗因から、そして自分から逃げた。得意のスマイルスルーだって上手くできるはずもない……笑顔も思考も引き攣る。環希先輩がセッターで出ていたのなら……、何で私が出たのだろう……。
私の心の内を読んだかのように環希先輩の優しい言葉が包み込む。
「確率ではなく可能性に賭けるべく1本があるの、菜々ちゃん覚えておいて。三咲ちゃんは言葉がキツイから……でも勝ちたい、ただ純粋に勝ちたいだけなのよ、みんな」
ううん……環希先輩、それはちょっと違います……。本当は環希先輩のトスを打ちたいんです、環希先輩がセッターなら勝てたのに、そう思ってます、みんな。
私が環希先輩よりトスが下手だから……。
その思いが言葉に出そうになって顔を上げた瞬間、両手で頬を挟まれた。私の目をしっかりと見て微笑んだ環希先輩が手を離すと、ポケットからティッシュを取り出して一枚、私の鼻水を拭う。そして自身の手はウエットティッシュで丁寧に拭き取る。
「スパイカーはね、回転のない死んだボールを欲しがるの。そのボールに強烈なドライブ回転を掛けるのがスパイカー」
「生命……?」
「そう、スパイカーの練習と努力という積み重ねてきた自信と気持ち。その成果が得点で表れる。確率は“確かさの度合い”だけど可能性は“チャンスの数だけ見込みがある”。だからセッターはアタッカーたちにどれだけのチャンスを作ってあげられるか、それが大事」
***
おっと、いかんです。小学校5年生にタイムスリップしてましたが、試合中です。
クイックの腕の振り下ろしのタイミングに合わせて、正に今発射しようとする2枚のブロックをあざ笑うように、左手でボールをはたき込む。
ツーアタック!
トンッと軽く響かせてボールは転がる。
試合場が湧く。その熱に乗って睦美が眼を潤ませて見つめてくる。そんな中、唯一パイセンがそっと近寄って来たのなら、私に一言。
「菜々、バレーは数学とか物理とは違うわよ、忘れちゃだめよ」
その言葉に四葉先輩を顧みる。私の表情は相変わらずのスマイルスルー。四葉先輩は負けず嫌いだ。ついさっきドシャットされたスパイク……。すぐさま私は表情を正す。
この一本は、スパイカーに打たせるべきだった……。
「……でも……ナイス、ツーよ!!」
唯一パイセンのキュートな笑顔が私を褒めてくれる。監督よりもホッと落ち着かせてくれるキャプテンシー。
完全にノーマークだった“ツー”。得点の確率を考えれば正しい選択だったのかもしれない。睦美が感心してくれたかしれない。でもサーブ&ブロック主体のチームにブロックから逃げたような選択はベストではない。味方の士気に関わる。それは目先の1点よりも大事な大局……。例えもう一度ブロックに掛かろうとも、トスワークとスパイクで勝負すべき1本。
***
「そんな弱気なトス回しじゃダメだ! じゃんけんで連続3回グーを出すほど強気で攻めろ!」
「レフトが決まらなかったからライト。ライトが外したからセンター。速攻が読まれたからまたレフトを頼る。後手後手のトス回しじゃ味方の士気にも関わる」
「そんなんだからトスが読まれるんだッ」
お姉ちゃんはいっつもキツイ……なにも試合途中、コートチェンジの最中に言わなくったっていいじゃない……。
そして試合は負けた……。
悔しさで涙を噛む先輩がいる中で、私は茫然自失、現実逃避状態。先輩たちの悔しさから、敗因から、そして自分から逃げた。得意のスマイルスルーだって上手くできるはずもない……笑顔も思考も引き攣る。環希先輩がセッターで出ていたのなら……、何で私が出たのだろう……。
私の心の内を読んだかのように環希先輩の優しい言葉が包み込む。
「確率ではなく可能性に賭けるべく1本があるの、菜々ちゃん覚えておいて。三咲ちゃんは言葉がキツイから……でも勝ちたい、ただ純粋に勝ちたいだけなのよ、みんな」
ううん……環希先輩、それはちょっと違います……。本当は環希先輩のトスを打ちたいんです、環希先輩がセッターなら勝てたのに、そう思ってます、みんな。
私が環希先輩よりトスが下手だから……。
その思いが言葉に出そうになって顔を上げた瞬間、両手で頬を挟まれた。私の目をしっかりと見て微笑んだ環希先輩が手を離すと、ポケットからティッシュを取り出して一枚、私の鼻水を拭う。そして自身の手はウエットティッシュで丁寧に拭き取る。
「スパイカーはね、回転のない死んだボールを欲しがるの。そのボールに強烈なドライブ回転を掛けるのがスパイカー」
「生命……?」
「そう、スパイカーの練習と努力という積み重ねてきた自信と気持ち。その成果が得点で表れる。確率は“確かさの度合い”だけど可能性は“チャンスの数だけ見込みがある”。だからセッターはアタッカーたちにどれだけのチャンスを作ってあげられるか、それが大事」
***
おっと、いかんです。小学校5年生にタイムスリップしてましたが、試合中です。