年に一度のロックフェスティバル。
リアルワールドとフロンティアの
合同開催のこのお祭りは、
露店やキッチンカーが集まって、
どんちゃん騒ぎの賑わいだった。

出演したバンドは、
視聴者や観客の投票により、
優勝トロフィーがもらえる。

そして、優勝特典として
独占有料音楽配信とCDで
メジャーデビューできるある意味
オーディションだった。

出演できるのは、
インディーズバンドのみ。

ジェマンドメンバーのジョーカーは
ヒットソングあったはずだが、
インディーズで登録してあったようだ。

お互いバチバチと火花が散るくらいに
睨み合っていた。
特にアシェルとロックの睨みは
半端なかった。

どちらも狼のため、迫力が違う。
威嚇し合う。

「ちょっと待ってください。
 戦うのは音楽でお願いしますね。」

小さな体のルークは必死に
2人の間に入って食い止める。

出演する順番は、1番先にジョーカーで、
ブレーメンのメンバーは
最後のトリをかざることになっていた。

ジョーカーとブレーメンの他に
8組のバンドが楽屋で待機していた。

妖精主婦バンド5人組バンド
【オバンド】と
狼ヤンキー4人組バンド
【ウルフリベンジャー】
うさぎとたぬきの6人組バンド
【カチカチロック】
さるとかにとゆかいな仲間たちの6人組
【シブカキーズ】
カピバラ4人組バンド
【温泉シスターズ】
スライム5人組バンド
【異世界ロックンロール】
パンダ3人組
【オセロブラザーズ】
こやぎの兄弟7匹バンド
【チョークは食べ物じゃない】

8組のメンバーとの戦いだった。
強者揃いでブレーメンのメンバーの
緊張度はMAXだった。

投票に関してはスマホやパソコン、
テレビの通信でどの歌手が良かったか
リアルタイムでわかるものだった。

会場に来ている観客も
手持ちのスマホやマイクロチップの
ディスプレイで投票する仕組みだった。

青と赤チームでトーナメント方式で
出演する。

ブレーメンは赤チームだった。
着ているTシャツが真っ赤のデザインに
なっていた。

ナイヤガラのような花火が打ち上がる。
会場はカラフルなペンライトを持った客席は
満席となり最上級に盛り上がっている。


ラクダの司会者がマイクを持って話し出す。

「レディースアンドジェントルマン!
 今日はロックフェスティバルに
 お越しいただきありがとうございます!!
 10組のインディーズバンドの頂点を
 決める祭典が今年も始まります。
 どうぞ最後まで
 楽しんでいってください!!」

 声と同時に花火がバンバン打ち上がる。

「最初のバンドメンバーは
 【ジョーカー】です。
 張り切ってどうぞ!」
 
 ドラムのスティックをたたき、
 リズムをとると演奏が始まった。

 最初に登場したジョーカーは、
 悔しきかなアシェルが作詞作曲した
 盗まれた曲を歌われていた。

 楽屋から、苦虫を潰したような
 顔でメンバーはじっと聴いていたが、
 観客はノリノリで聴いていた。
 複雑な表情だった。


 裏でテレビモニターを確認しながら、
 他の演者を見ていた。

 緊張がいつまでもほぐれない。

 落ち着かなくなったアシェルは、
 楽屋を飛び出して、
 ステージをしっかりと見える観客席
 ギリギリのスペースに移動した。

(こんな大人数の場所で
 歌ったことないのに俺、歌えるか。
 レッスンスタジオはいつも
 何も喋らないシャウトしかいないのに
 どうこのモチベーションあげれば
 いいんだよ。)

 冷や汗がとまらない。
 太ももで両拳を握りしめてじっと
 見ていた。
 経験済なのか、狼のロックは
 自然に気持ちよさそうに歌っていた。
 
 ロックを見ていると、
 俳優オーディションで
 落とされた過去をどうしても
 思い出してしまう。

 受かるはずのないオーディション。
 なんのためにやったのか。
 自分を踏み台に上がるためとか
 言われた時は、イライラがとまらない。

 クレアがお手洗いから戻ってくると、
 アシェルが、太ももを傷つけるくらいに
 拳を握りしめていた。自分の爪が足に
 当たってることに気づいていないようだ。

「アシェル!」

 バックに入れていた絆創膏を手渡した。

「え、あ…。何?」

「ほら、足。
 血出てるよ?」

「本当だ。気づかなかった。
 さんきゅ。」

 渡された絆創膏をペタっと貼った。
 ズボンに少し穴が空いてしまっていた。

「ダメージジーンズってことで
 オシャレでいいね。
 もう少し破ってもいいじゃない?」

 本当は破れていないジーンズ。 
 クレアはあえてもっとビリビリと破って
 ダメージを大きくした。
 案外オシャレになってかっこ良くなった。

「何か、前に受けたオーディション。
 あいつ、ロックってやつが
 合格してたから悔しくて…。
 思い出すだけでもう手に力が入るんだ。
 結局、落とされた俺らは余り者で、
 そもそも選ばれる見込みのないやつを
 呼ぶってことが本当にありえないって
 いうか。」

「……アシェル、大丈夫。
 みんな同じ気持ちだよ。
 私も、ブレーメンのメンバーみんな。」

 クレアの後ろには
 リアムとオリヴァも来ていた。
 さらにその後ろにルークとボスもいた。
 静かにそれぞれが頷いている。

「その悔しい気持ちを歌で
 見返してやろう。」
 
 拳を出して、リアムが言う。

「そうだよ、俺らの歌は無敵だ。
 最高なんだよ。」

 オリヴァは右手をつき上げた。

「よし余り者でも最上級に
 てっぺん取れることを
 見せつけてやろう!!」

 アシェルは、顔を上に右手を高く高く
 つき上げた。

「その意気込みだよ。
 がんばれ。
 というか、
 俺もギターでフォローするから。
 全力出そう。」

 ボスは鼻息を荒く、励ました。

「おーーー。」

 円陣を組んで、叫んだ。
 ブレーメンに気合いが入った。

 まだ出番ではなかったが、
 今か今かと楽屋で待ち構えていた。