株式会社Spoonの黒い建物の前にメンバー全員が揃っていた。

雲ひとつない真っ青な空の今日は、
初めてのみんなで会場に
お客さんを入れての演奏の予定だった。

会社から楽器、衣装を運ぶために台車に
それぞれ乗せて運んでいた。

場所は徒歩10分のところにあった。

会場入り時間は
17時30分。
開演は、
18時。

チケットは1ヶ月前から販売していたが、
売れ行きはなかなか厳しいところがあった。

メンバーの身内に配ったり、少しは売り上げに貢献をと宣伝していたが、思うように売れず、当日になった。

「あのさ、ノルマのチケット売れた?」

アシェルは、楽器を運びながら、
オリヴァに声をかけた。

「え、ボスからもらったチケットのこと?」

「そうそう。」

「俺、両親が若くして亡くなったから
 身内は妹しかいないからさ。
 10枚チケット、もらっていたけど、
 1枚も売ってないよ。
 妹からお金もらえないし。」

「あー、そうなんだ。
 だよな。身内に売るって無理だよな。
 お金もらうって確かに俺も無理だわ。
 家族近くに住んでないしなぁ。
 そしたらさ、誰もいないってこと
 考えられない?!」

「…確かに。
 誰もいない会場に
 ってことあるのかな。」

 アシェルとオリヴァは予測は
 大体あっていた。

「まぁまぁ、こう言う時もあるよね。」

 ボスは、空き缶がコロコロと転がる
 ライブ会場のガラガラの観客席を見つめ、
 腰に手をあてた。

「ボス、こう言う時は
 今だけにしてほしいです。」

 ルークは大きくため息をついた。 

「だってさ、ノルマ分の
 チケット売ったところで、
 誰も来なければ、
 それは、ただの紙切れじゃない?
 お金も募金されたような感覚。
 それって意味あるの?」

「こっちが聞きたいです。」

「うちで、
 チケット買ってって母に頼んだら、
 その日は、
 仕事だから行けないわって言われて、
 売れないのは困るでしょうって
 お金渡された。
 うん、これは募金や寄付のような
 もんだ。」
 
 リアムは左の手の平にポンと右手の拳を
 たたいた。

 自分で言って自分で納得している。

 何をすれば、お客を集められるのか。
 人気がないのにゼロからのスタートで
 チケットを売っても、知らない人の歌を
 聴くのにわざわざ高額を払う必要はない
 んじゃないかと思う。
 
 誰でもそうだ。

 歌を聴いて、何を思うか。
 元気になる、悲しくなる、切なくなる。
 気持ちが揺れ動く。
 安心する。

 楽しくなる。
 何度も聴きたくなる。

 人は、感動や心揺さぶるものを聴いた時、
 お金を払ってでもまた繰り返し聴きたいと
 感じる。

 もちろん、それは、動物界でも同じ
 だった。

 アシェルたちは、まだ音楽を
 完成していない。

 曲を何度も演奏して、
 間違えずにできるようになっただけで、
 お客さんに聴かせるような曲に
 なっていなかった。

 それは、学校で習うリコーダーと一緒だ。
 何度も練習して、できるようになった。

 あの感覚。

 集中して、聴かせたいリコーダーと
 いえば、そうではない。

 お客さんがいない会場で
 何度も演奏と歌を繰り返し、
 ルークを審判にして、
 どうすればいいかと
 反省すべきところを探した。

 作戦は何度も練り直された。