株式会社Spoonの黒い建物の
 入り口前には、
 発注にかけていたスプーン作りに
 必要な材料が段ボール何箱にもなって
 重なっていた。

 狼のアシェル、妖精のクレア、
 カメのオリヴァ、うさぎのリアムの4人は、
 その出入り口に到着した。
 
 ボスの指令で本日午前10時に集合と
 メッセージが送られてきた。

 ここで初めて4人が揃う。
 お互い、緊張していた。
 
 これから何が始まるんだろうと
 胸の鼓動が高鳴った。


「お待ちしておりました。
 みなさん、お揃いですね。
 ボスもいますよ。
 奥の方へどうぞ。」

 ルークは、パタパタと額にタオルを
 巻きながら出迎えた。
 昨夜も徹夜でスプーン作りに
 追われていたようだ。

 アシェルはお疲れさんとルークの
 小さな肩を叩く。

 目の下にクマもできていた。

「ひよこさんにもクマって
 できるんですね。」

 クレアは通りすがりに言った。

 背中にしっかり甲羅を乗せたオリヴァは
 無言で進んでいく。

「そういや、駅前の八百屋で
 にんじんがセールしてましたよ。
 買い物してきちゃった。」

 袋にたっぷりのにんじんを見せつける。

「いやいや、これから仕事なのに
 にんじんって…。」
 
 ルークは呆れ顔。

「ルークさんにもあげますよ。
 ここのにんじん美味しいんですよ。」

「あ、あぁ、ありがとうございます。」

 ルークは、いらないとも言えず、
 そのまま受け取った。

 社長室のドアをアシェルが先頭に開けた。

 ボスがふかふかの黒いいすに座って窓の外を見ながら、コーヒーを飲んでいた。

「ボス、みなさんがお揃いですよ。」

「おう、今日は天気も良く、
 空にはフロンティアにかかる
 虹が出ている。
 良いことがありそうだ。
 さぁ、みんなそこに座ってくれ。
 ……ってもう、お家のごとく
 くつろいでいるね。」

「どうもぉ。
 ルークさんにカフェオレごちそうに
 なってました。
 美味しいです。」

 リアムがマグカップを持ちながら
 バウムクーヘンをつまんでいた。

「俺、ブラックコーヒーでいい。」
 
アシェルは自動で出てくるコーヒーメーカーの前にいたルークに話しかけた。

「え?!カフェオレ入れちゃいましたよ。
 そしたら、私が飲むんで、
 ちょっと待っててください。」

ルークが新しいマグカップを用意した。

「ちょっと待て、
 ここはファミレスのドリンバー
 じゃないぞ。 ここ、社長室だから。」

 ボスはリラックスしている
 みんなに声をかけるが、
 フロンティアの名物キャンデーに
 みんな釘つけだった。
 
「これ、綺麗だよね。
 いつも売り切れるの。
 差し入れに買っておいて本当によかった。
 人数がわからなかったから、
 多めに買ってたよ。」

 クレアはバラバラと、バックから
 大量のキャンデーを出した。

 そのキャンデイは、
 まんまるの透き通った青色の
 棒付きキャンデーだった。

「おーい、聞いてる?」

「え、それって、毎日売り切れるの?」

 オリヴァが興味持って聞いている。

「そうなのよ。
 だから、店頭に1番に並んで
 買ったわ。
 お土産に持って帰ってね。」

「イライジャが喜ぶよ。
 クレアありがとう。」

 オリヴァはバックの中にキャンデーを
 入れた。

「あのー、キャンデーの話はその辺で
 いいですか?」

 ボスはへりくだって言う。

「あ、すいません。何の話でしたっけ。」

 アシェルが唯一、ボスの話を聞いていた。

「メンバーが
 仲が良いことはとても良いこと 
 なんですが、
 何も話が進まないのは困ります。
 とりあえず、役割分担を発表しますね。
 アシェルさんは、ボーカルとギターを、
 オリヴァさんは、ドラムを、
 リアムさんは、キーボード、
 クレアさんは、ベースを
 担当していただこうと思っておりました。
 みなさん、どうですか?」

 ボスは資料を見ながら、説明する。
 すでにアシェルはボイトレを、
 オリヴァはドラムレッスンを受けていた。

「あ!!私、ベースなんて無理です。」

 クレアが立ち上がって宣言する。

「え、どうしましょう。
 バンドとしてはベースがあると
 いいですけど。」


「キーボードやりたい!!」


「え、僕がキーボードする予定でしたよ。」

 うさぎのリアムが気迫に負けないように
言う。

「えーーー、んじゃ。やりたくないかも。
 歌も得意じゃないし。
 ドラムもやったことないし。
 おります!!」

「いやいや、早いでしょう。
 ちょっと待ってください。
 リアムさん、
 ピアノ習っていたって話でしたけど、
 音楽お得意そうですし、
 この機会にベースに挑戦するのは?」

「ええ。まぁ。
 音楽は好きですからね。
 …ふぅ。
 クレアさんがやりたいのないって
 なるんなら
 仕方ないですよね。
 いいですよ、やりますよ。
 ベース。
 まかせてください。」

「やったー。
 私、キーボード。
 え、でも、どうやるの?」

 ズテンとみんなが転ぶ。
 希望した割にやり方を知らないって
 どういうことか。

「知らないで、やりたいって
 言ったんですか?」

ルークが転んでから起き上がって聞く。

「キーボードってイメージが女の子って
 思うから。」

「イメージだけで選ぶんですね。
 まぁ、意気込みがあればなんだって
 できますよ。」

「んじゃ、その役割で、
 明日から地獄のレッスン始まるから、
 覚悟してねぇ。
 期待してるよ。
 個人個人でレッスンの仕方違うから
 よろしく。
 はい、今日は解散!!」

ボスは両手を叩いた。

それぞれ帰ろうとするのか、
全然そんな素ぶりを見せず、
ファミレスごとく、飲み物をおかわり
していた。

居心地がいいってことだ。

ボスは、何となく、ご不満そうに
コーヒーを飲み続けた。

ぺちゃくちゃ話している声を聞くと
羨ましく感じてしまう。


メンバーが無事揃ってとりあえずは
安心した。