雲一つない青空に、鳩がバサバサと
飛び交った。

ここは石畳の街中。
デジタルディスプレイの看板が並ぶ、
交差点の歩道にギターケースを置いた。

ギターを背負って、
ケースにお金が入るように
名前の書いた紙を貼り付けた。

楽譜スタンドを立てかけた。

人々は急ぎ足で青になった横断歩道を
進んでいく。

こちらの様子を気にする人は誰もいない。

声の調子を整えた。

ギターのチューニングを始めた。

リップロールをした。

アシェルはルークに言われた通りに数をこなせということで、路上ライブに挑戦した。

動画配信で音楽は載せていたが、
再生回数は
今は高止まりしていていた。

1000回以上は再生されていたようだが、
まだ無名のためかそれ以上は増えなかった。


ギターを試しに弾いてみる。


音の調子はバッチリだった。


ギターをかき鳴らして歌い始めた。


【 自分軸を地面に 突き刺して
  何を言われても 突き進む

  壁を突き破るには
  諦めない心を 持つべきだ

  信じていた者の裏切りは 突然だ
 
  それでも 未来は 
  まだ 決まっていない

  これから  作りあげて行く
  誰になんと 言われようとも

  泥臭い道でもトンネル抜けたら
  光が見えてくるはずだ    
  
  あまりものに 福がある
  信じて 生きていく   ーーー】

 思いっきり気持ちを込めて歌ったが、
 立ち止まって聞いてくれる人は
 いなかった。
 みな、通り過ぎていく。

 何をそんなに急がなくてはいけないのか。
 都会の人々は忙しなかった。

 通りがかった蛇のサラリーマンが、ポンと
 ギターケースの中に入れてくれた。

 期待して、中を覗くと
 包んだ銀色の捨てガムを
 入れていた。
 アシェルはがっかりして悔しかった。
 なかなか、
 ギターケースの中にお金を入れる人は
 いなかった。

 現実は厳しかった。

 歌が下手なわけじゃない。
 曲がこれと言って
 つまらないわけではない。
 
 通行人に響かなかった。
 緊張していたためか、
 恥ずかしい思いが少しあったのか。

 また、通りかかったクマの会社員に
 ケースの中にぽろんと入れられた。
 まさかと思ったら、
 今度は、パチスロで使うメダル1枚
 だった。
 お金ではなかった。

 賽銭箱でも喜ばないものだ。

 地面を拳でたたいた。
 指と指の間に小さな砂利が挟まった。

 最初の路上ライブはズタボロに傷ついて、
 また歌うという気持ちにはならなかった。
 
 動画配信で聴くお客さんと
 街の交差点で聴くお客さんの
 好みが違うのかもしれないと
 悩みに悩んだ。

 ギターケースのホコリを払って、
 持っていたギターを片付けた。

 そこへひよこのルークが飛んできた。

「アシェルさん!」

「あ、黄色。」

「え、信号?」

「違うよ。」

「あ、私のことですか。
 ルークです。名前あるでしょう。
 黄色って確かに黄色で合ってます。
 英語で言うとyellowね。
 そうそう、って
 英会話してる場合じゃないですって。」

「誰も聞いてねぇよ。」

「それより、どうでしたか?
 路上ライブ。
 お客さん来てくれました?」

「……。」

 静かに荷物をまとめ上げた。

「ま、最初はそんなものですよね。
 動画配信の世界と実際に
 路上に立ってするのとは
 訳が違いますしね。
 あとは、数をこなしていけば…。
 ってちょっと話は
 まだ途中なんですけど!!」

 パタパタと浮かんでいるルークを 
 無視して、アシェルはその場から
 離れていく。

 あまりにも自分が
 惨めになるのが嫌だったようだ。

 心がどこか落ち着かなかった。

 ルークはアシェルとともに妖精さんを
 交渉しに行こうとしていたが、
 足が早くて追いつかなかった。