楠俊に連れられて藤生邸に着いた一同を迎えたのは剛太だった。
「おはようございます」
皓矢が挨拶すると、剛太は人見知りを発揮して所在なさげに戸惑った。
「あ──えっと……」
「銀騎皓矢です。早い時間に申し訳ありません」
「剛太さん、おはようございます」
皓矢の後ろから鈴心が顔を出すと、剛太はたちまち顔を明るくさせて元気よく返した。
「あ!おはようございます!」
「……」
その様子に、皓矢は笑顔のまま苛ついた。鈴心を狙う輩認定をしたようだった。
永も皓矢の様子を見て、こいつと同じだとは、と複雑な気持ちになった。
「剛太、葵のやつはどうだ?」
そういう激しい心の攻防があったことなど全くわかっていない蕾生が剛太に聞く。
「あ……あの子ならまだ目を覚ましてません」
「剛太様、こちらの銀騎殿は鵺化に関しては専門家です。診ていただいたらいかがでしょうか?」
「そ、そうですね!お祖母様に伺ってきます!」
横から楠俊が付け足すと、剛太は弾かれたように中へ戻っていった。
一同は玄関に取り残された形になったが、楠俊の計らいで奥の間へと進んだ。
「どうぞ、お入りになって」
奥の間の襖を開けた康乃は剛太に支えられていた。表情にはまだ疲れが滲んでいる。
「大丈夫ですか?相当お疲れなのでは?」
永が気遣うと、康乃は力無く笑った。
「嫌ねえ、もう年なのかしら。情けないわね」
「いえ、昨日のご活躍を思えば当然だと思います」
「確かに。昨日は凄かったもんな」
続けて鈴心と蕾生も口々に褒めると康乃は少し元気を取り戻したようだった。
「まあ、光栄だわ」
康乃に促されて奥の間に入った一同は、そこで布団に寝かされて眠る葵に対面する。
「失礼します」
入るなり皓矢が葵の側まで行き、その額に手を当てた。
「……」
「どうご覧になります?」
康乃も元から座っていたのだろう、葵の枕元に敷いてあった座布団に座り直して皓矢に尋ねた。
「彼はずっとこの状態ですか?」
「そうね。昨夜は墨砥が寝ずの番で見張ってくれていたのだけれど、特に変わったことはなかったそうよ」
「あ、眞瀬木の人が来てたんですね」
永が言うと、康乃は穏やかに頷いた。
「ええ。一晩何もなかったから、帰って自主的に謹慎しているわ」
「それは殊勝なことで」
息子があんな事になったのに役目を忘れない墨砥の律儀さに、永は舌を巻いた。
「お兄様、どうですか?」
「……うん。キクレー因子は落ち着いているようだ。星弥の状態と比べても変わらないように思える」
集中して葵の様子を探っていた皓矢は、一旦手を離してから鈴心の問いに答えた。
すると康乃が首を傾げて自身が耳慣れない言葉を反芻する。
「キクレー因子?」
「私の祖父が名付けたDNAで、鵺由来のものです。こちらでは単に鵺の妖気と呼ばれているものに相当します」
「まあ、そうなんですか。それがどなたのと変わらないって?」
「私の妹です。彼と同じくキクレー因子を保有していますが、永くんや蕾生くんのものと違って普段は因子が眠っている状態です。彼──葵くんの状態もそれに似ています」
皓矢は躊躇なく説明した。
星弥のことはぼかす事もできたのにそうしなかったのは、こうなった原因が少なからず銀騎にもあることを皓矢が償いたいと思っているからだ。
「そうですか……では未だに目覚めないのは、精神的な?」
「かもしれません。聞けば母親が目の前で石化したとか。それが原因で鵺化したようですから、彼が心の整理をつけるまでは……」
「そう……時間が解決してくれるとよいのですけど」
康乃は沈んだ面持ちで俯いた。
「おはようございます」
皓矢が挨拶すると、剛太は人見知りを発揮して所在なさげに戸惑った。
「あ──えっと……」
「銀騎皓矢です。早い時間に申し訳ありません」
「剛太さん、おはようございます」
皓矢の後ろから鈴心が顔を出すと、剛太はたちまち顔を明るくさせて元気よく返した。
「あ!おはようございます!」
「……」
その様子に、皓矢は笑顔のまま苛ついた。鈴心を狙う輩認定をしたようだった。
永も皓矢の様子を見て、こいつと同じだとは、と複雑な気持ちになった。
「剛太、葵のやつはどうだ?」
そういう激しい心の攻防があったことなど全くわかっていない蕾生が剛太に聞く。
「あ……あの子ならまだ目を覚ましてません」
「剛太様、こちらの銀騎殿は鵺化に関しては専門家です。診ていただいたらいかがでしょうか?」
「そ、そうですね!お祖母様に伺ってきます!」
横から楠俊が付け足すと、剛太は弾かれたように中へ戻っていった。
一同は玄関に取り残された形になったが、楠俊の計らいで奥の間へと進んだ。
「どうぞ、お入りになって」
奥の間の襖を開けた康乃は剛太に支えられていた。表情にはまだ疲れが滲んでいる。
「大丈夫ですか?相当お疲れなのでは?」
永が気遣うと、康乃は力無く笑った。
「嫌ねえ、もう年なのかしら。情けないわね」
「いえ、昨日のご活躍を思えば当然だと思います」
「確かに。昨日は凄かったもんな」
続けて鈴心と蕾生も口々に褒めると康乃は少し元気を取り戻したようだった。
「まあ、光栄だわ」
康乃に促されて奥の間に入った一同は、そこで布団に寝かされて眠る葵に対面する。
「失礼します」
入るなり皓矢が葵の側まで行き、その額に手を当てた。
「……」
「どうご覧になります?」
康乃も元から座っていたのだろう、葵の枕元に敷いてあった座布団に座り直して皓矢に尋ねた。
「彼はずっとこの状態ですか?」
「そうね。昨夜は墨砥が寝ずの番で見張ってくれていたのだけれど、特に変わったことはなかったそうよ」
「あ、眞瀬木の人が来てたんですね」
永が言うと、康乃は穏やかに頷いた。
「ええ。一晩何もなかったから、帰って自主的に謹慎しているわ」
「それは殊勝なことで」
息子があんな事になったのに役目を忘れない墨砥の律儀さに、永は舌を巻いた。
「お兄様、どうですか?」
「……うん。キクレー因子は落ち着いているようだ。星弥の状態と比べても変わらないように思える」
集中して葵の様子を探っていた皓矢は、一旦手を離してから鈴心の問いに答えた。
すると康乃が首を傾げて自身が耳慣れない言葉を反芻する。
「キクレー因子?」
「私の祖父が名付けたDNAで、鵺由来のものです。こちらでは単に鵺の妖気と呼ばれているものに相当します」
「まあ、そうなんですか。それがどなたのと変わらないって?」
「私の妹です。彼と同じくキクレー因子を保有していますが、永くんや蕾生くんのものと違って普段は因子が眠っている状態です。彼──葵くんの状態もそれに似ています」
皓矢は躊躇なく説明した。
星弥のことはぼかす事もできたのにそうしなかったのは、こうなった原因が少なからず銀騎にもあることを皓矢が償いたいと思っているからだ。
「そうですか……では未だに目覚めないのは、精神的な?」
「かもしれません。聞けば母親が目の前で石化したとか。それが原因で鵺化したようですから、彼が心の整理をつけるまでは……」
「そう……時間が解決してくれるとよいのですけど」
康乃は沈んだ面持ちで俯いた。