次の朝、一晩寝たら(はるか)はすっかり元気になっていた。鈴心(すずね)が途中で止めさせたおかげだろう。永が元気に起きてきて鈴心はほっとしていた。
 
「あんな、今日は別行動してみいひん?」
 
 朝食を食べ終えた後、四人はほとんど条件反射で梢賢(しょうけん)の部屋に集まっていた。
 
「なんで?」
 
 蕾生(らいお)が聞き返すと、梢賢は少し勿体ぶって言う。
 
「昨夜、なんかいい感じにまとまってしもて、主張するのが薄かった事がある」
 
「なんです?」
 
「オレは、もう、金が、ない!」
 
 心からの叫びだった。鈴心は聞いたことを後悔して呆れ、永は苦笑していた。
 
「ああ、瑠深(るみ)さんから自転車を借りれないってことね」
 
「そゆこと!やから、今日はオレとライオンくんだけで高紫市(たかむらさきし)に行くわ」
 
「俺がか?」
 
 蕾生はあまり気が進まなかった。永と別行動をとるのが不安なのだ。
 
「ハル坊は絹を編まなあかんやろ。鈴心ちゃんかて初日に熱中症になりかけたんや、暑い山道は避けるべき。そしたら残るのは?」
 
「おお、俺か……」
 
 納得するしかなくて項垂れる蕾生の横で鈴心も大きく頷いた。
 
「確かに、ハル様には休みながら編んでいただきたいです」
 
「せやろ?祭まで一週間もないからな。あと、二人だったら里でこっそり情報集めたりもできるんちゃう?」
 
「まあ、少人数の方が動きやすいのは確かだね。ライくんはそれで大丈夫?」
 
「梢賢とかー……、自信ねえなあ」
 
 蕾生がわざと溜息を吐いて見せると、梢賢は憤慨して吠える。
 
「あっ、何その信用ない目!オレかて時間かけてここまで(すみれ)さんと信頼関係を築いた功績があるで!」
 
「そんなに信用されてねえだろ」
 
「まっ!なんてでしょ!ライオンくんにはそんな風に見えてたのねっ、悲しいわぁ!」
 
 大袈裟に泣く真似などをする梢賢は放っておいて、永はウィンクしながら蕾生に言い含めた。
 
「ライくんの不安もわかるけど、調べないといけないことが山積みだからね。妙案だと思うよ」
 
「……永がそう言うなら」
 
 渋々頷いた蕾生だったけれど、呟きには不満が込められている。
 
「うん。僕らは編み物をしつつ、慧心弓(けいしんきゅう)の事、誰か知らないか探してみるよ」
 
「ちなみに、梢賢は知らないんですか?」
 
 鈴心が聞くと梢賢は首を振って答えた。
 
「うん?ああ、長年うちにあったっていう弓やな。オレは生まれてこのかた見たことないよ」
 
「そう。じゃあ、身近なところから聞いていこうかな」
 
「ええ?父ちゃんも母ちゃんも教えてくれるかなあ……」
 
 不安そうな梢賢に、永は自信たっぷりのウィンク付きで答えた。
 
「教えてもらうさ。「康乃(やすの)様の命令は絶対」なんでしょ?」

 永は昨日康乃に言われた「知りたいことは柊達(しゅうたつ)梢賢(しょうけん)に聞けばいい」を実行するつもりだ。
 
「ああーん……せやったな。ま、健闘を祈るわ。父ちゃんは今日はなんも予定はないはずや」
 
「了解。じゃあ、ライくんも気をつけてね。雨辺(うべ)に行くんでしょ?」
 
「おう」
 
 そうして蕾生は永と鈴心とは分かれて梢賢と行動することになった。つまり昨日永が地獄を見せられたママチャリが今日は蕾生に支給される。
 しかし、体力お化けの蕾生にとっては漕ぎにくかっただけで、何と言うこともなかったことは永に知られてはならない。