※一番最後に第三部の予告がありますので、せめてそれだけでもワープして読んでいただけたら嬉しいです!!

眞瀬木(ませき)(ぬえ)信仰〉
 
 雲水(うんすい)一族が麓紫村(ろくしむら)に流れ着く以前、呪術師である眞瀬木家は鵺についての知識はほとんどなかった。ただ噂で銀騎(しらき)(師羅鬼)が鵺という化物をしつこく追っているのを聞く程度だった。そこに渦中の銀騎からスカウトがやってくる。民間呪術師出身の眞瀬木は、正統な陰陽師を名乗る銀騎家からの勧誘を喜んで受け入れた。当時の眞瀬木家当主の長男を銀騎に弟子という形で派遣した。眞瀬木は高い結界術を見こまれて鵺の遺骸分析チームに配属される。しばらくは研究の日々が続いた。だがある日、鵺の呪いに魅入られた眞瀬木は同僚達に怪我を追わせ銀騎を出奔する。その際、眞瀬木は鵺の遺骸から体毛を数本むしり取っている。それを持って眞瀬木は麓紫村に戻った。
 
 鵺に魅入られた眞瀬木家長男は、以降引きこもりがちになり独自に研究を重ね、自分なりの鵺についての解釈を進めていった。いつしか仲間が増え、眞瀬木内部には「鵺信者」と形容される一派が形成される。その思想は時に当主にすら及ぶこともあった。そこに雲水一族が麓紫村に流れ着く。当時の眞瀬木家当主は鵺信者だったため、雲水一族の受け入れを藤生(ふじき)家に強く進言し、眞瀬木がそれまで使っていた神社の社や土地を提供するほど熱狂的だった。その後、雲水一族は仏教の教えを麓紫村にもたらして、与えられた神社を寺に改修する。神道と仏教の教えをうまく融合させ、麓紫村の宗教観を更に強固にした。眞瀬木はその功績を讃えられ、藤生の分家として迎えられる。一介の民間呪術師が、武家の親戚筋にまで出世した瞬間であった。
 
 以降、眞瀬木は麓紫村のナンバー2として、絶大な発言権を持つまでになった。

 
雨辺(うべ)家の成り立ち〉
 
 麓紫村に移り住んだ雲水一族は鵺を忌み嫌っており、鵺を崇める一派を抱える眞瀬木家とは距離を保って暮らしていた。だが、麓紫村は藤生と眞瀬木が支配すると言ってもいいくらいの絶大な影響力が村人全体に及ぶ土地である。雨都(うと)に名を変えた雲水一族は客人扱いではあったが、改名は眞瀬木主導で行われた経緯もあって、眞瀬木に追随する者も少なくなかった。そのような背景で、雨都の一部の者に眞瀬木の鵺信仰が広がっていく。
 
 眞瀬木の鵺信者との集いに参加するようになった雨都の者は、次第に鵺に魅入られていった。呪術の知識を持たない雨都は鵺に傾倒していき、呪術師である眞瀬木であれば理性と歯止めがきくが、一般人に近い雨都は熱狂的に鵺を信仰するようになる。
 
 事態を重く見た雨都の当主は内部の鵺信者の排斥を始めた。厳しい環境に耐えかねた雨都の鵺信者は麓紫村からの出奔を企てる。時同じくして、眞瀬木の方でも内部の鵺信者が増えており、これまでのように黙認することが難しくなっていた。と言うのも、すでに雨都は眞瀬木に代わり村の宗教関係を一手に担うまでなっており、その面で藤生は雨都を重用しているため、眞瀬木は雨都をある程度尊重しなければならなかった。
 
 眞瀬木は表向き雨都に倣って鵺を排斥する立場をとる。しかし眞瀬木の鵺信者はそれでも鵺を諦めきれず、雨都の鵺信者が出奔するのを手引きし、眞瀬木で作った鵺神像の瞳を託した。その際、連絡役兼支援役として眞瀬木からも特に鵺に傾倒している者数人が密かに村を出た。
 
 隣街に逃れた雨都の鵺信者は雨辺に名を変えて鵺を信仰し続ける。その中で雨都とも眞瀬木とも違う鵺に対する独自の解釈が育っていく事になる。こうして雨辺は眞瀬木からの援助に頼る生活を現在に至るまで続けている。


〈登場人物〉

 周防(すおう) (はるか)
 15歳。高校一年生
 鵺に呪われた武将、(はなぶさ)治親(はるちか)の現在の姿
 麓紫村(ろくしむら)には雲水の末裔である雨都梢賢に請われて訪れた
 そこで、かつての同志である雨都(うと)(かえで)の末路、雨都が抱える分家問題、麓紫村の闇に触れる
 それら全ては鵺の呪いが起源であることを悟り、それまでの自然災害のような化物だという認識を変え、自らに厄災をもたらす化物として完全な鵺討伐を目指す決意をする。
 慧心弓(けいしんきゅう)の後継武具、常盤慧殊(ときわけいじゅ)を入手した

 (ただ) 蕾生(らいお)
 15歳。高校一年生
 鵺に呪われた武将、英治親の郎党、雷郷(らいごう)の現在の姿
 銀騎研究所での戦いを経て、鵺化を克服し制御しつつある
 銀騎皓矢から与えられた武具、白藍牙(はくらんが)を持つ
 麓紫村での複雑な状況で永や鈴心が疑心暗鬼に苛まれる中、当初の目的(梢賢を助けること)だけに邁進し二人を導いた
 鵺化した葵と戦う際、黄金色の鵺に変化することに成功した

 御堂(みどう) 鈴心(すずね)
 もうすぐ14歳。高校一年生(飛び級)
 鵺に呪われた武将、英治親の郎党、リンの現在の姿
 銀騎(しらき)詮充郎(せんじゅうろう)の研究により、遺伝子を操作され生を受けた
 銀騎製のキクレー因子(レプリカ)とリンが元々持っていたキクレー因子(オリジナル)を合わせ持つとされるが詳細は不明
 麓紫村では少し体調を崩すも、永の補佐を立派に務めた

 雨都(うと) 梢賢(しょうけん)
 18歳。大学一年生
 意識して関西弁を話し、飄々とした雰囲気を演出している。お笑い芸人が大好きで、何でもお笑いに例えて言うと簡単に説得される
 雨都に百数十年ぶりに生まれた男子であることにプレッシャーを感じてはいるが、自分を特別視して中二的想像で動くこともある
 幼い頃に出会った雨辺菫に懸想し、彼女を正気に戻すために永達の居場所を突き止めて協力を仰いだ
 菫が石化してしまい、珪まで出奔した責任を感じ、永達とともに鵺と戦う決意をする
 犀髪の結(さいはつのむすび)の後継武具、鴗絹鞭(りゅうけんべん)を入手した

 眞瀬木(ませき) (けい)
 25歳。実業家。眞瀬木家長男
 鵺肯定派と言ってはいるが、その実、鵺過激派と形容してもいいほど鵺に傾倒している
 伯父の眞瀬木(ませき)灰砥(かいと)が粛清された後、伊藤有宇儀(ゆうぎ)に従って雨辺菫の援助に加担する
 葵の鵺化を目論み、鵺を支配下に置くため母親の存在は不必要であると考え、同時に菫の石化も準備していた
 当初珪は犀髪の結(さいはつのむすび)により葵を鵺化しようとしていたが、祭で菫が暴走したため先に菫を石化してしまった
 これにより計画とは順番が逆になってしまったが、葵が母を亡くした衝撃で鵺化したので彼の目的は結局果たされた
 黄金の鵺になった蕾生と、藤生康乃の力、銀騎皓矢の介入により彼の目論見は崩れたが、伊藤有宇儀の勧誘を受け麓紫村を出奔した

 眞瀬木(ませき) 墨砥(ぼくと)
 52歳。呪術師。眞瀬木家当主
 藤生に付き従うことが全ての頑固者。鵺否定派
 顔は険しいが、藤生とも雨都ともバランスを取りながら平穏に暮らしたいと願う穏健な部分もある
 珪がしでかした一連の事件に責任を感じるも、康乃からの命令と梢賢からの申し出により自刃を踏みとどまる
 永に珪が調べた伊藤有宇儀についての資料を託し、梢賢には珪の捜索と拿捕を託した

 眞瀬木(ませき) 瑠深(るみ)
 18歳。高校三年生。眞瀬木家長女
 呪力の低い珪に比べて、瑠深は天才とも言われるほどの実力を持つ。そのため、親族では瑠深を次の当主に据える意見もある
 高校を卒業したら本格的に呪術の修行をする予定
 本人の性格はサバサバ系で、男まさりな物言いをするが、スイーツが好きなどの少女らしい一面も合わせ持つ
 同じようにハッキリと物を言う鈴心を気に入り、蕾生については少し気になっている

 八雲(やくも)
 47歳。本名は大柿(おおがき)鋼一(こういち)
 八雲は眞瀬木直属の職人集団の長の名で、鋼一はその十八代目。眞瀬木墨砥の従兄弟である
 現在は職人は八雲一人のみ
 八雲には職人と同時に内部粛清の任務もあり、少し離れた位置から常に眞瀬木家を見張っている

 藤生(ふじき) 康乃(やすの)
 60歳。藤生家当主
 夫を早くに亡くし、息子夫婦も事故で亡くす。以降村の全てを取り仕切る女傑
 藤生先代の父と当時恋仲だった雨都(うと)(まゆみ)の娘
 藤生の絹生成の力を使いこなし、葵が鵺化した際は自身のキクレー因子も機能させて葵を人間に戻した
 それにより、資実姫(たちみひめ)の力を失う
 素早い決断力で、ニコニコしながら軽い感じで決めるので周囲を戸惑わせることもある

 藤生(ふじき) 剛太(ごうた)
 12歳。小学六年生
 康乃のたった一人の孫。早くに両親を亡くし、村の大人に囲まれて育ったため少し精神が不安定な部分がある
 だが、今回の一件で次期当主としての意識が芽生え、資実姫の力を発現させた
 鈴心に恋をしている

 雨辺(うべ) (すみれ)
 36歳。主婦
 雨都から離反した分家の末裔。中学生の時に両親を亡くして以降、眞瀬木灰砥と伊藤有宇儀から援助を受けている
 鵺をうつろ神と呼び、異常な信仰心を持つ
 息子の葵にもそれを強要し、それが原因で葵が藍を妄想で作り出すもそれを無視し続けた
 葵が鵺化しかけたのを機に暴走し、織魂祭に乱入。珪の策謀により石化させられて死亡した

 雨辺(うべ) (あおい)
 10歳。小学校には行っていない
 菫の長男として生まれるが、母からの多大な期待と鵺信仰の強要により精神を病み、イマジナリーフレンドの藍を妄想する
 長年キクレー因子を摂取させられたため、本来雨辺の持つ少量の因子ではあり得ない鵺化を果たした
 蕾生と藤生康乃の尽力により、鵺化が解除、藍も消失したため、一時的に幼児退行している
 梢賢の姉夫婦、雨都(うと)楠俊(なんしゅん)優杞(ゆうこ)夫妻の養子となり、麓紫村で暮らすことになった

 雨都(うと) (かえで)
 享年25歳前後
 50年ほど前、17歳で麓紫村を出奔した後、ハル達と共に慧心弓を扱って当時の鵺と戦った
 鵺の呪いを受けた状態で村に戻ると徐々に衰弱し、およそ七年後に死亡したとされる
 その際、眞瀬木家から鵺の呪いを内包した遺体を惜しまれ、姉の(まゆみ)立ち合いの下で石化を施される
 以降はそれを楓石と呼び、現在は梢賢が受け継いで持っていた
 八雲と皓矢により鴗絹鞭の一部となって梢賢の武具となる

 伊藤(いとう) 有宇儀(ゆうぎ)
 年齢不詳
 眞瀬木灰砥と手を組んで雨辺菫を援助・洗脳していたようだが、どちらが主導していたかは不明
 灰砥の死後、珪に近づいて表向きは珪の部下のような働きをしていた
 織魂祭の日、土壇場で登場し、不思議な力で珪とともに次元の狭間に消えた

 銀騎(しらき) 皓矢(こうや)
 28歳。銀騎家次期当主
 長年ハル達と敵対していたが、今回の転生で永と和解、以降全面的なバックアップをしている
 陰陽師の力は天才的で、眞瀬木珪を圧倒した。八雲とともに常盤慧殊と鴗絹鞭を作成した
 武具に独特のセンスで名前をつけるのが大好き

 銀騎(しらき) 星弥(せいや)
 16歳。高校一年生
 皓矢の妹で、蕾生達と同じ高校に通う優等生
 鈴心同様、キクレー因子(レプリカ)を持つ被験者
 キクレー因子を半覚醒させた事により、その力を制御するべく夏休みは陰陽師修行をしている


 ⭐︎眞瀬木の呪具・犀芯の輪(さいしんのわ)から、永の武具・常盤慧殊(ときわけいじゅ)へと成った詳しい解説⭐︎

 ◎眞瀬木の長男が銀騎から持ち出した鵺の腕毛を使用して、鵺神像の瞳に鵺の妖気を宿らせた →それを信仰する
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 ◎雲水一族が麓紫村に移住。彼らが持っていた慧心弓(けいしんきゅう)を借りた眞瀬木が、慧心弓の神気と内包していた鵺の妖気を複製
  ※この時、慧心弓の内部は鵺の妖気を弓の神気でくるんだ状態だった。表には神気が出ている。
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 ◎眞瀬木の鵺信者が慧心弓から複製した鵺の妖気を神気もろとも犀芯の輪に格納。これにより、鵺の妖気が増え弓の神気が表に出なくなった。
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 ◎雨都の中の鵺信者(後の雨辺)が麓紫村を出奔。手引きしたのは眞瀬木で、これを機に眞瀬木は雨辺で鵺を信仰することに。
  そのため、鵺神像の瞳をくり抜き持ちやすい環状にして雨辺に預ける。 →犀芯の輪が完成
  ※眞瀬木も少数の鵺信者を密かに村から出し、雨辺の支援と監視をさせた。
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 ◎眞瀬木灰砥(かいと)が粛清された後、伊藤有宇儀(ゆうぎ)が眞瀬木(けい)に接近。以降、珪は雨辺家を利用することを思いつく。
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 ◎雨辺にある犀芯の輪を、珪がレプリカ(八雲作)にすり替える。レプリカには石化の呪術を組み込んでおく。
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 ◎奪った犀芯の輪を研究した珪は、鵺の妖気を増幅させる新たな呪具を設計する。 →犀髪の結(さいはつのむすび)(硬鞭)ができる
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 ◎犀髪の結に、犀芯の輪から取り出した鵺の妖気を移す。その際、珪は呪術で鵺の妖気を更に増幅させた。
  ※このため、隠れていた弓の神気が更に小さくなる。また、珪が扱うために珪の呪力も僅かに犀髪の結には込められている。
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 ◎祭の日、雨辺菫を石化させ、レプリカの犀芯の輪が消滅する(妖気を取り出した本物の犀芯の輪はすでに廃棄済み)
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 ◎犀髪の結から鵺の妖気を二分し、極小の弓の神気を取り出す。(硬鞭には鵺の妖気の半分と珪の呪力が残る)
  永が持っていた翠破(すいは)紅破(こうは)の神気を使い、極小だった弓の神気を表に出す。
  藤生から提供された資実姫(たちみひめ)の神気で鵺の妖気をくるむ。更にそれを弓の神気でくるむ。
 ↓
 ◎弓の神気と資実姫の神気で強固にコーティングされた鵺の妖気を、新たな弓・常盤慧殊に格納する。
  同様の技法で、梢賢の新たな武具・鴗絹鞭(りゅうけんべん)も作成する。
 ※{弓の神気+資実姫の神気+(鵺の妖気半分)}→常盤慧殊へ
 ※{楓石の神気+資実姫の神気+(鵺の妖気半分+珪の呪力)}→鴗絹鞭へ


【第三部予告】

 重症を負った銀騎(しらき)詮充郎(せんじゅうろう)がいまだに目覚めない隙をついて、かつてのパトロンであった玉来(たまき)建設が介入してきた銀騎研究所。二十年以上疎遠だったのに、何故今なのか。皓矢(こうや)は唯一連絡を取り合っていた副社長の玉来(たまき)千明(ちあき)が行方不明になっていると知る。玉来建設の不審な動きと副社長の失踪には必ず関係性があると見た皓矢は、かつて銀騎を裏切ったとされる分家出身の御堂(みどう)漱真(そうま)の足跡を追うことにした……

 一方、学校が二学期に入った蕾生(らいお)達。銀騎研究所の危機的状況を危惧しつつも平穏な生活を送ろうとした矢先、クラスに男子の転入生が現れる。帰国子女だという彼は赤い髪で派手な外見のためにたちまち学校の注目を浴びた。何故か蕾生につっかかり喧嘩にまで発展するも、拳で意気投合。だが、(はるか)梢賢(しょうけん)は彼への警戒を緩めない。

 星弥(せいや)鈴心(すずね)は皓矢を手伝いながら玉来建設と玉来千明の行方を追っていく。御堂漱真を調べるうちに明るみになる前回の転生。彼は一体何をしたのか、リンと詮充郎が交わした密約とは何だったのか。詮充郎が愛息・紘太郎(ひろたろう)死亡の真実を語る時、鵺の呪いと転生の秘密が紐解かれる。

 蕾生の黒鵺化が止まらない。仕方なく永は弓を引く。必死で止める鈴心から驚愕の事実が……!
「お前は、九百年を無駄にしたのか?」
 赤い影が三人に忍び寄る……




 頑張って書くので、是非三部も読んでください!!   城山リツ