下級ポーションでは完全な回復は難しいと判断し、中級ポーションを服用してもらうことにした。
緋色の液体を口に含むと、ディートリヒの顔色が良くなり骨折して変形していた部分も赤みが取れていく。
「すげぇ、痛みが引いたぞ……。もしかして、怪我も全部治ったのか?」
「ああ、中級ポーションは骨折など重度の外傷にも効果がある。恐らく大半の怪我は治療できたはずだ。だが体力はそれ相応に消耗しているから注意しろ」
「体力の消耗、ね……っとと」
立ち上がろうとしたディートリヒだったが、すぐにバランスを崩して膝から倒れそうになる。
俺は彼の肩に手を伸ばし、体を支えた。
「なるほど、これが消耗か……。体に力が入らねぇな」
「そういうことだ。自分が想像する以上に上位のポーションによる治癒は体力を奪うからな。無理せず大人しくしていろ」
「だ、だけどよ、あの氷の壁、そろそろ壊されそうだぜ?」
ディートリヒが指摘したとおり、キルシュが展開した“氷壁”の壁は至る所に亀裂が入り、限界を迎えていた。
そしてドラゴンゾンビの一際強烈な爪の一撃が氷の壁に振るわれると、遂に氷の壁は粉々に砕け散った。
砕け散った氷の破片がキラキラと輝きながら空に霧散する中、キルシュの姿を捉えたドラゴンゾンビはすかさずブレスを吐き出す。
「生意気ナエルフメガ!! ヨクモ小癪ナ手品デ我ノ邪魔ヲシテクレタナ。モウ時間ヲアタエヌ。消エヨ!!!」
漆黒に光り輝くブレスがキルシュの体を包み込み爆散した。
黒い瘴気が辺りに立ち込め、キルシュの姿が見えなくなる。
「旦那!!」
怪我の治療で体力が消耗しきっているのに駆け出そうとするディートリヒの肩を掴み、俺は彼をその場に押しとどめた。
「落ち着け。キルシュは大丈夫だ」
「だけどあんなブレスの直撃を喰らったら……」
漆黒の瘴気が晴れていくと、そこは黄金のオーラに包まれた杖とキルシュの姿があった。
当然、彼は無傷である。
キルシュの持つ杖ドラウプニルは世界樹の枝から作り出されたアーティファクトであり、三本の枝が絡まった姿をしている。
キルシュがその杖を手から離すと、杖は独りでに空に浮かんだ。
「ドラウプニル封印解除。黄金樹の起動を命じる」
キルシュの命令を受けて、ドラウプニルはその姿を変えていく。
黄金に輝く枝がうねりながら絡まりを解く。
その中から小さな指輪が一つ、収納されていた。
それは黄金の輝きを放ち、厳かな雰囲気を湛えている。
「ナンダ……ナンナノダ、ソノ忌マワシイ黄金ノ光ハ!! 一体何ヲスルツモリダ、エルフ!!」
己の爪先よりも小さい指輪を見たドラゴンゾンビの言葉には困惑、いや恐怖の感情がにじみ出ていた。
それもそのはずだ。
黄金の指輪が放つ莫大な魔力の流れはこの場にいる誰よりも圧倒的で凄まじいものだったからだ。
魔力をもたないディートリヒですら指輪が放つ魔力を感じ取り、後ずさりしていた。
「ザ、ザイフェルトの旦那! あの指輪は一体何なんなんだ……。あれは一体何なんだよ!?」
「あれこそが“邪竜ファーブニル”の対となる“聖竜ニーズヘッグ”が授けし神代のアーティファクト“ドラウプニル”だ。世界を支える世界樹の枝を鞘にした輝ける黄金の指輪。光輝なる竜の王が生み出した邪悪なる竜を討つための武器だ」
その指輪はいと猛き竜の王より託され
神と共にあったエルフの王の手に
そは一にして全
全にして一
指輪はすべての理を顕し
指輪はすべてに繋がる
輝ける黄金はあまねく全てを照らし出し
昏き影を打ち消さん
キルシュの口からドラウプニルに込められた“魔法”を解放する呪文が紡がれていく。
呪文の一節が唱えられる度に指輪の輝きが増していき、最後の一説が唱えられた時には最早目を開けていられないほどの眩い光が洞窟全体を照らし出していた。
「ナゼダ、ナゼコンナチッポケナ指輪ガ恐ロシク感ジラレル!?」
輝きとともに指輪から放たれる膨大な魔力に気圧されたドラゴンゾンビは、恐怖に声を震わせながら何度も爪を指輪に叩きつけるが、攻撃すべてが黄金の光の前に弾かれる。
「忌マワシイ光ゴトキエサレィ!!」
ドラゴンゾンビは漆黒のブレスを吐きかけたが、それもまた指輪の光を消すことはできない。
黒い瘴気は黄金の光の前にただ散らされ消えていくのだった。
「ヤメロ…ヤメロ……ソノ光ヲ解キ放ツナァァ!!!」
ドラゴンゾンビの絶叫が洞窟に木霊した。
「“黄金律”」
キルシュがドラウプニルを発動するための最後の呪文を唱えると、指輪から膨大な量の黄金に輝く光が放たれドラゴンゾンビの体を包み込んだ。
光り輝く黄金の輪が幾重になってその巨大な体を拘束していく。
「ア…ア…我…ガ消エ…テ…イ……」
黄金の輝きの中でドラゴンゾンビの体は溶けるように消えていく。
鱗が消え、肉が消え、骨も消え、そして最後にはドラゴンゾンビの巨体は塵一つ残さず消滅する。
その消滅と同じタイミングでドラウプニルの指輪から放たれていた光も静かにおさまり、世界樹の枝の中に収納されていく。
元の杖の形態に戻ったドラウプニルを手で掴んだキルシュは、深々とため息をついた。
「ふぅ……。久しぶりに魔法を発動すると疲れるね。まぁ、ドラゴンがアンデッド化したものを魔術で攻撃しても効果が薄いから仕方ないけどね。ザイ、ディートリヒくんの容体はどう?」
「全身に打撲と骨折が見られましたが中級ポーションを飲ませて今は回復しています。ですがやはり体力はかなり消耗しているようです。自力での歩行が困難な状況なので、俺が補助して連れ出します」
「そう、それならよかった。ではディートリヒくんのことはザイに任せるね」
「はい、お任せください」
緋色の液体を口に含むと、ディートリヒの顔色が良くなり骨折して変形していた部分も赤みが取れていく。
「すげぇ、痛みが引いたぞ……。もしかして、怪我も全部治ったのか?」
「ああ、中級ポーションは骨折など重度の外傷にも効果がある。恐らく大半の怪我は治療できたはずだ。だが体力はそれ相応に消耗しているから注意しろ」
「体力の消耗、ね……っとと」
立ち上がろうとしたディートリヒだったが、すぐにバランスを崩して膝から倒れそうになる。
俺は彼の肩に手を伸ばし、体を支えた。
「なるほど、これが消耗か……。体に力が入らねぇな」
「そういうことだ。自分が想像する以上に上位のポーションによる治癒は体力を奪うからな。無理せず大人しくしていろ」
「だ、だけどよ、あの氷の壁、そろそろ壊されそうだぜ?」
ディートリヒが指摘したとおり、キルシュが展開した“氷壁”の壁は至る所に亀裂が入り、限界を迎えていた。
そしてドラゴンゾンビの一際強烈な爪の一撃が氷の壁に振るわれると、遂に氷の壁は粉々に砕け散った。
砕け散った氷の破片がキラキラと輝きながら空に霧散する中、キルシュの姿を捉えたドラゴンゾンビはすかさずブレスを吐き出す。
「生意気ナエルフメガ!! ヨクモ小癪ナ手品デ我ノ邪魔ヲシテクレタナ。モウ時間ヲアタエヌ。消エヨ!!!」
漆黒に光り輝くブレスがキルシュの体を包み込み爆散した。
黒い瘴気が辺りに立ち込め、キルシュの姿が見えなくなる。
「旦那!!」
怪我の治療で体力が消耗しきっているのに駆け出そうとするディートリヒの肩を掴み、俺は彼をその場に押しとどめた。
「落ち着け。キルシュは大丈夫だ」
「だけどあんなブレスの直撃を喰らったら……」
漆黒の瘴気が晴れていくと、そこは黄金のオーラに包まれた杖とキルシュの姿があった。
当然、彼は無傷である。
キルシュの持つ杖ドラウプニルは世界樹の枝から作り出されたアーティファクトであり、三本の枝が絡まった姿をしている。
キルシュがその杖を手から離すと、杖は独りでに空に浮かんだ。
「ドラウプニル封印解除。黄金樹の起動を命じる」
キルシュの命令を受けて、ドラウプニルはその姿を変えていく。
黄金に輝く枝がうねりながら絡まりを解く。
その中から小さな指輪が一つ、収納されていた。
それは黄金の輝きを放ち、厳かな雰囲気を湛えている。
「ナンダ……ナンナノダ、ソノ忌マワシイ黄金ノ光ハ!! 一体何ヲスルツモリダ、エルフ!!」
己の爪先よりも小さい指輪を見たドラゴンゾンビの言葉には困惑、いや恐怖の感情がにじみ出ていた。
それもそのはずだ。
黄金の指輪が放つ莫大な魔力の流れはこの場にいる誰よりも圧倒的で凄まじいものだったからだ。
魔力をもたないディートリヒですら指輪が放つ魔力を感じ取り、後ずさりしていた。
「ザ、ザイフェルトの旦那! あの指輪は一体何なんなんだ……。あれは一体何なんだよ!?」
「あれこそが“邪竜ファーブニル”の対となる“聖竜ニーズヘッグ”が授けし神代のアーティファクト“ドラウプニル”だ。世界を支える世界樹の枝を鞘にした輝ける黄金の指輪。光輝なる竜の王が生み出した邪悪なる竜を討つための武器だ」
その指輪はいと猛き竜の王より託され
神と共にあったエルフの王の手に
そは一にして全
全にして一
指輪はすべての理を顕し
指輪はすべてに繋がる
輝ける黄金はあまねく全てを照らし出し
昏き影を打ち消さん
キルシュの口からドラウプニルに込められた“魔法”を解放する呪文が紡がれていく。
呪文の一節が唱えられる度に指輪の輝きが増していき、最後の一説が唱えられた時には最早目を開けていられないほどの眩い光が洞窟全体を照らし出していた。
「ナゼダ、ナゼコンナチッポケナ指輪ガ恐ロシク感ジラレル!?」
輝きとともに指輪から放たれる膨大な魔力に気圧されたドラゴンゾンビは、恐怖に声を震わせながら何度も爪を指輪に叩きつけるが、攻撃すべてが黄金の光の前に弾かれる。
「忌マワシイ光ゴトキエサレィ!!」
ドラゴンゾンビは漆黒のブレスを吐きかけたが、それもまた指輪の光を消すことはできない。
黒い瘴気は黄金の光の前にただ散らされ消えていくのだった。
「ヤメロ…ヤメロ……ソノ光ヲ解キ放ツナァァ!!!」
ドラゴンゾンビの絶叫が洞窟に木霊した。
「“黄金律”」
キルシュがドラウプニルを発動するための最後の呪文を唱えると、指輪から膨大な量の黄金に輝く光が放たれドラゴンゾンビの体を包み込んだ。
光り輝く黄金の輪が幾重になってその巨大な体を拘束していく。
「ア…ア…我…ガ消エ…テ…イ……」
黄金の輝きの中でドラゴンゾンビの体は溶けるように消えていく。
鱗が消え、肉が消え、骨も消え、そして最後にはドラゴンゾンビの巨体は塵一つ残さず消滅する。
その消滅と同じタイミングでドラウプニルの指輪から放たれていた光も静かにおさまり、世界樹の枝の中に収納されていく。
元の杖の形態に戻ったドラウプニルを手で掴んだキルシュは、深々とため息をついた。
「ふぅ……。久しぶりに魔法を発動すると疲れるね。まぁ、ドラゴンがアンデッド化したものを魔術で攻撃しても効果が薄いから仕方ないけどね。ザイ、ディートリヒくんの容体はどう?」
「全身に打撲と骨折が見られましたが中級ポーションを飲ませて今は回復しています。ですがやはり体力はかなり消耗しているようです。自力での歩行が困難な状況なので、俺が補助して連れ出します」
「そう、それならよかった。ではディートリヒくんのことはザイに任せるね」
「はい、お任せください」