俺が次にみなみに会ったのは、メモリアルホールだった。

白いレースが身体を包み、紙でできたティアラを付け、メイクも完璧だった。
どうやら、俺が買ってきた服は、やせ細ってしまったみなみには、大きすぎたらしく、今の彼女に合うよう義母が直してくれていた。

みなみは、一目見て分かったんだろう。服のサイズが合わないことに。だから、その服を俺の前で着たくはなかった。

それは、楽しい時間にに水を差すことになるから。
彼女なりの気遣いだったのだ。

棺に横たわるみなみは、白雪姫にも勝る美しさだった。しかし、俺の姫は、これから先二度と目覚めることはない。

よく、また動き出しそうでした。とか言う人がいるが、俺は、みなみの死を彼女の姿を見てはっきりと認識した。

彼女が、あまりにも神々しく、この世のものではないんだという思いが、心を支配する。

もう、起き上がることも、話すことも、喧嘩をすることも、新しく家族が増えることも、ない。

あまりにも短すぎる歳月だった。

棺には、小さな帽子、服、それから靴下も入れられた。みなみが、万が一の時のために俺には内緒で作っていたらしい。
それから俺が買った、メモと鉛筆も。

彼女は、入院中このメモをフル活用し、医師や看護師さんの名前、嬉しかった出来事などを綴っていたらしい。

義母に許可を取り読ませてもらうと、そこには、窓からみえた雲が、犬みたいだった。とか、気分が良かったから少し散歩ができた。とか

病院での生活が書いてあった。
最後の方は、文字も弱々しく読むのが大変だったがありがとう。ありがとう。ありがとう。と書かれているようだった。

そしてこの時俺は、みなみの死後、初めて涙を流した。
病室で一人、彼女はありがとうという言葉をどんな気持ちで記したのだろう。

俺は、自分の命が明日をもしれない時に感謝する気持ちにはなれない。

もしも書くとしたら、なんで俺なんだよ。まだまだやりたい事あるし。誰か代わってくれ。死にたくない。死にたくないんだよ。

自分でも呆れるくらいスラスラと言葉が出てくる。

俺は、彼女を傷つけたまま逝かせてしまった。
夫、失格だ。

どうして、もっと時間を作らなかったんだろう?
どうして、もっと愛してる。と伝えなかったんだろう?

感謝や愛のことばに、多すぎるというのはないのだから。

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みなみ、俺まだ、未来はあると信じていたんだ。
楽しい時間は永遠に続く。
なんなら、明日は今日よりもっと楽しい。
そう思っていたんだ。
バカみたいだろ。

だけど、現実は甘くなかった。
正直、めちゃめちゃ後悔してる。
だから、今度巡り会ったら、
うるさいくらいに伝えから。

好き、愛してる、ありがとう。って。

だから、みなさんもどうか大事な人に愛してるって伝えてください。
君の代わりはいないんだって。

僕は過去を振り返るのは嫌いです。失った時はどんなに悔やんでも二度と戻っては来ないから。
そう分かっているから。

でも、今はもう一度みなみに会って溢れるほどの愛を惜しみなく捧げたいと思っています。

きっと、彼女は驚くでしょう。
目を見開いて(どうしたの?熱でもある?)
そう言って笑うかもしれません。

でも、思いを伝えないで後悔するより、伝えて笑われた方が、ずっと素敵だと僕は思います。

本日は、ありがとうございました。
故人いえ、みなみもきっと喜んでいます。
そう信じてもいいですか?


喪主 上田慧