みなみの体調は、回復しなかった。それどころか、悪化の一途を辿っているようにさえ見えた。
絶え間なく続く吐き気、下がらない熱。食欲もなく、ベッドから起き上がれない日も増えた。

(もしかしたら…妊娠…)

結婚したら、最低1年は夫婦でゆっくり過ごそうと話し合っていた俺たちだが、賑やかな生活も悪くない。
そう思った俺は、彼女に病院への受診を提案した。

「みなみ。一回病院で診てもらわないか」

「大丈夫だから。だいたいこの程度で病院行ったら笑われるよ。なんで来たんですか?って」

「それなら、それで良くない?」

「それに…」

「それに?」

「お前、妊娠してるんじゃないのか?」

俺がそう言うと、みなみは飛び起きた。

「そう…そうなのかな」

期待で目が輝いている。さっきまで、ぼんやり天井を眺めていた人物とは別人のように生き生きしている。

「でも、そうなると約束が…」

口ごもる俺にキッパリとみなみは言った。

「もし私たちの所にコウノトリが来てくれたなら、すっごく嬉しい」

「大変!忙しくなりそう」

「ベビー用品揃えなきゃ」

「何色がいいんだろ?クリーム色系ならどちらでも大丈夫かな?」

「ねぇ、慧は男の子だと思う?それとも女の子?」

「まだ決まったわけじゃなないから」

「とにかく、明日病院行こう。俺も付き添うから」

「ねぇ。おめでとうございます!ご懐妊です。とか本当にあるのかな?」

夜から夜までしゃべり倒しそうな勢いだ。

「もう、横になってくれ。頼む」

「楽しみ。楽しみだね。慧」

今にして思えば俺が余計な事を言ったせいで、みなみをより一層、傷つけてしまった。
一度口から出てしまった言葉は取り消せないから。

しかし、そんな事さえ気づかないほど俺は愚かだった。