イグナルト視点)

◆騎士団ミカエル本部 食堂にて

俺は今ミカエル騎士団の食堂で食事を取るために長い列に並んでいた。

今日でマハイルさんが亡くなって丁度一週間がすぎた。

葬儀は騎士団内で密かに行われた。

葬儀が終わって数日が過ぎたが俺自身まだ死んだ実感がわかない。
今でもあの家に行けばマハイルさんが笑顔で出迎えてくれる気がする。

しかしそんな事はもう起きない、、、

そんな事を考えていると後ろから肩を叩かれたので振り返る。そこにはセアラさんの姿があった。

「おい、イグ、、、、元気か?」

なんか気を使ったような言い方だ

「まぁ、、元気ではないですけど。大丈夫です」
「そうか、、、」

いつもみたいに小言の一言も無いとなんか調子が狂う。

「あまり自分を責めるないでよ、その顔色からしてここ数日寝れて無いでしょ。」
「そうですね、、、でも今回の件は俺に責任があります。マハイルさんを守ると約束したのに、俺が任務で慢心したせいで盗賊を取り逃したんです。セアラさんにも慢心をするなと忠告を受けていたのに、」
「それは違う、今回の件はイグだけの責任じゃ無いわ。周りには多くの兵もいた。今回の件は騎士団の問題よ、」
「いえ、、ですが、、、やっぱりいいです」

このまま話し合いしていても意味がない
マハイルさんが死んだ事実は変わらないのだから。

俺がどれだけ自分を責めてもマハイルさんが帰ってくるわけではない。
そんな事は百も承知だ、、

だが自分を咎めないと自分自身が許せない。

「すいません、、、」
「はぁ、これは相当きてるな、、」

ため息を吐くセアラさんこのため息はめんどくさいから出たものではなく俺を心配するから出たものだと理解できた。

この人根は優しい人なんだよな。

「ところでイグ、シエルちゃんの様子はどうだ?」
「シエルは、、、」

シエルは今俺の部屋にいる自分の母親が死んだ実感をあまり持てていないだろうけど、

二度と会えない事は理解できていた。

3歳の女の子には残酷な真実だ、、

同じく両親を失った俺にはシエルの苦しみは理解できた。

理解できたからこそシエルに同じ思いをしてもらいたくなかったのに。

また気が落ち始めた俺を見てセアラさんが喝を入れるように背中を思いっきり叩いた。

「痛っーーてぇ」
「今シエルちゃんにはイグしか頼れる人いないんだから、そんな暗い顔しないの。」

痛む背中を堪えながら返事に答える。

「わ、わかってますよ。シエルの前ではこんな顔見せれませんよ。」
「わかってるなら良いわ。ほらアンタの番よ、食事を取りなさい。」

目線を並んでいた行列に戻すと前には人が居ず代わりにカウンター越しに給養員がいた。

俺はその給養員から食事が乗ったトレーを2つもらった。

一つは他の人と同じメニューが乗ったものともう一つは子供が好きそうな食べ物が乗ったトレーだった。

「はい、今日もシエルちゃんが食べてくれそうな特別メニューを作ってあげたわよ」
「ありがとうございます。」
「あまり無理に食べさせなくて良いからね」
「はい、今日はシエルも少しは食べてくれると思います。」

給養員と少し話し、二つの食事が乗ったトレーを持ち自室に戻る。

「今日は少し食べてくれると良いんだがな」

◆ミカエル本部 寮棟
ご飯が乗ったトレーを持ち、寮室のドアを開ける

一人で住むには十分な広さの部屋の中には書類整理などを行う為の机と椅子にシングルベッドの必要最低限の物が置いてある、
面白みのない部屋も光景が広がっていた。

俺の部屋だ。
あまり趣味がないので部屋には何も置かない。

部屋で唯一目立つベットの上に目を向けるとシエルが隅の方で座っていた。
まだ寝てると思っていたので少し驚いた。
その隣には使い魔のフェニの姿も見えた。
食堂でセアラさんと話した時の様な暗い表情を辞め、元気にいつも通りシエルと接する

「シエル、おはよう」
「・・・・おはよう」

シエルは元気がなく返事を返す。
まぁ、返事が返ってくるだけありがたいが。
最初の方はショックで話す事も出来なかったからな。

俺は心配しながらシエルの顔を除くと目の横が赤く腫れている事に気が付いた。
俺がいない間に泣いていたのだろう。

「シエル、飯持って来たが食べるか?」 
「・・・いらない」

その瞬間シエルの腹から大きな音が鳴る。

「・・・腹がなってるぞ。」
「たべたくない。」

お腹が空いてないじゃなく、食べたくない・・・

その言葉から分かる通り。体は飯を欲しているが心がそれを邪魔している様子だ。

マハイルさんの葬式が終わってからずっとこの調子だ。
三日間ちゃんとご飯を食べていなかった。
寝間着のまま服も着替えず。何もしないでずっと部屋の隅に座って俺の部屋に引きこもっている。

はぁ、あまり強引な手は使いたくないんだがな、

シエルがこうなったのは俺が原因だから、あまりシエルに強引な事はしたくなかったが・・・・

さすがにずっとこのままだとシエルの体にも悪いし、マハイルさんにも合わせる顔がない。

俺のベットの隅に座っているシエルを抱き上げる。
意外と抵抗しなかった。
俺はそのまま椅子に座り、自分の膝の上にシエルを座らせる

机の上にあるシエルの食事が乗ったトレーからオムレツが乗った皿を一つ選びスプーンですくい、シエルの口に運ぶ。

「ほら、旨そうなオムレツだぞ」
「だから、いらないって」

シエルの鼻をオムレツの香りでくすぐる様に近づけると先程とは比べ物にならない程の大きな腹の音が鳴る。

「体は正直だな、我慢せずに食べな」
「・・・わかったよ、」

渋々とスプーンに乗ったオムレツをゆっくりと食べ始めた。
するとシエルの目に光が少し戻った。

このオムレツはシエルが好きなような味付けに作ってもらった特別な物だった。

「おいしい。」
「そうか、よかったな。」
「もう一口ちょうだい。」
「もちろんだ。ゆっくり食えよ。」

次々とトレーに乗った食事を食べ進め、あっという間にすべて完食した。
余程腹が減っていたのだろう。

食べ終えるたシエルの顔を見てみると少し笑っていた。
よかった。

「うまかったか。」
「うん、おいしかった。」
「・・・なぁ、シエル」
「なに?」
「少し外に出てみないか?」
「・・・いや」

シエルは再びベットの隅の方へ移動し、フェニに抱き着きつく。

それを見てフェニもゆっくりと羽でシエルを包み込んだ。
フェニには感謝している。
マハイルさんが亡くなってからずっとシエルのそばにいてシエルを見守ってくれていた。

数分するとフェニの羽の中からシエルの寝息が聞こえた。
腹がいっぱいになって眠くなったんだろう。

今日はご飯を完食できただけ進歩した方だろう。

外に出る事は断られたが少しずつでいい。
焦らずにゆっくりとシエルの心の傷を癒そう。

俺はそう誓いゆっくりと部屋を後にした。