澤地甲斐の異常な痣は、肝試しで土鬼の巣に入り込んだ際に卵を割ったことによる怪異なのはほぼ間違いない。おそらく土鬼の仔に憑依されている箇所が黒く変色しており、成長に伴って徐々に拡がっているのだ。

 問題は土鬼の仔が肉食であること。現時点でも小動物を襲っているらしく、甲斐の飼っていたハムスターが犠牲になった。このまま放置していれば、徐々に獲物は大型化して、しまいには人間をも襲いかねない。

「そういえば土鬼の親って何を食べてるんだ? 昔っからあそこにいるはずなのに、何か起きたって話は聞かないけど」

「大人になってしまえば土の精気を吸えばそれで充分だよ。土鬼はもともと土の精霊だからね」

「それじゃなんで子供はあんなに狂暴なんだよ」

「成長期でいっぱいエネルギー要るからね。それに、土って一言で言えば生物の死骸でしょ?」

 それはそうだが、もう少し言い方というものがあるのではなかろうか。いや、人外のモノである尾崎に人間の機微を持てというのは無理な話で、これでも気遣ってくれるだけマシだと思うべきか。

「なるほどな。それで、どうやって親に迎えに行かせるんだ? 放っておいても澤地のところに行ってくれるのか?」

「いや土鬼の本体が垣の内側に縛られている以上、竹林の外には出られまい。それ以前に竹林の外では我が子の存在も感じ取れぬやも知れないね」

「つまり、澤地を竹林まで連れて行けば良いと?」

 それだけで良いならあまり苦労せずに土鬼の仔を親元に返してやれそうだ。

「律が誘えば喜んでついてくるよ。あの子、律のことが好きだろう?」

「澤地は誰にでも愛想が良いんだ。一種の処世術だろ。俺は人と距離を置きがちだから、気を遣ってるだけだ」

 律は尾崎の軽口に閉口しつつ、甲斐の名誉のためにも訂正しておく。律自身は、甲斐の大げさな態度は自分に好意があるというよりは、苦手意識の裏返しだと思っている。

「ふ~ん……まぁいいや。口実は何でも良いから、放課後に寄って行かないか誘ってごらんよ」

「とりあえず試してみる」

 話が一段落したところで律は教室に戻った。あまりトイレに長居しても要らぬ勘繰りを招くだろう。