あれから一週間。律が登校すると教室がざわついていた。どうやら、ここ数日休んでいたクラスメイトが久しぶりに登校したらしい。

「珍しいよな~澤地が熱出すなんて」

「天変地異の前触れじゃねーの?」

 澤地甲斐は明るく元気が有り余っている、いわゆるクラスのムードメーカー。何が楽しいかわからないが、いつも笑顔で騒々しく、誰かとつるんでいる。

 人付き合いが苦手で人との距離を置きがちな律に対しても、何かと世話を焼きたがるので、慣れないうちは閉口した。
 それでも越えられたくない一線はきちんと守ってくれるので、慣れれば不快な相手ではない。

「澤地、熱出してたのか?」

 珍しく律の方から話しかけたことで、甲斐は一瞬だけ意外そうに目をみはった。
 しかし、それは一瞬のことで、ぱっと笑顔を作って実に嬉しそうにしゃべりはじめた。

「え? なに律心配してくれてたの? 俺ちょー嬉しいんですけど!!」

「え……いや、そこまで心配してたわけじゃ……」

「いーの、律がちょっとでも俺の事気にしてくれただけで嬉しーから。こないだ俺ら肝試し行くっていってたじゃん? あの夜帰ってからなんか身体だるくって。朝起きれなくて、熱はかったら39度近くて、まじでびびったよ。PCR検査で変な病気じゃないのはわかったけど、結局なんだかわからないんだよなー」

 まくしたてる甲斐の姿は元気そのもので、とても前日まで高熱に苦しんでいたようには見えない。

「肝試しから帰ってから高熱?」

「そう、あのお寺の裏の竹林の中ずーっと行ってさ。変な塀みたいなのの中のお堂みたいなとこ入ったんだけど、急に寒気がして。慌てて帰ったら熱出しちゃったんだよな」

 そういえば、萩野家の裏手の竹林の、桧垣の中に闖入者(ちんにゅうしゃ)があったのはその肝試しの日でなかっただろうか。
 もし土鬼の卵が割れてしまったのであれば、自分が亡父に代わってまた封じ直さねばなるまい。

「律っちゃん、どうかした?」

「いや、なんでもない」

 表情を曇らせ律が考え込んでいると、甲斐が律をけげんそうな顔でのぞき込んだ。
 慌てていつも通りの微笑を張り付けてかぶりを振れば、甲斐もそれ以上は立ち入っては来ない。

「なんにせよ、熱下がって良かったな。無理するんじゃないぞ」

「サンキュ」

 律は軽く会話を打ち切ると席に戻った。帰宅したらすぐに土鬼の巣を見に行かねば。