「なぁ、今夜肝試ししようぜ」

「いいな~、どこ行く?」

「お寺の裏に竹林があるから行ってみようぜ。
なんか古いお堂っぽいものがあってなんか雰囲気あるし」

 律は夏休みがあけてまもない9月のはじめ、教室の中ほどで騒いでいる陽気な男子生徒たちの声に眉をひそめた。
 彼らにとっては遊び足りなかった夏の、ちょっとした名残のお遊びのつもりなんだろうが、怪異というのは意外にどこにでも転がっているものだ。ただ単に気付いていないだけ。
 日常と非日常は紙一重。面白半分に足を踏み入れると、二度と非日常から戻ってこられなくなることもあるのだ。

「なぁ、萩野も行かねえ?」

「いや、俺はいい。そういうの、苦手なんだ」

 不意に話をふられて律はたじろいだが、すぐに困ったように微笑んで断った。

「ちぇっ、相変わらず付き合いわり~な~。びびってんの?」

「い~んじゃね~の?無理に誘わなくて。誰にだって苦手なモンの1つや2つ、あるもんだろ?」

 ぎゃはは、と響いた笑い声に内心ため息をつく。本気でそう思っているなら放っておいてほしいのに。彼らに悪気はないのはわかっていても、ついつい煩わしく思ってしまう。

 生臭い人間とのつきあいはうんざりだ。常に欲の臭いをぷんぷんさせていて、息がつまってしまう。そのくせ上辺だけは取り繕って、欲などとは無縁であるがごとく、お綺麗にみせているのだからご苦労様な事である。

 もののけたちのように、欲には素直に向き合って、変に隠すことなどしなければよいのに。

――欲しいものは欲しい、他人のものはどうでもいい。

 そうやって割り切って生きられれば、この世に在るのもずっと楽になるのではないか。

――だから、俺にはどうか構わないで欲しい。俺は人間には興味がないし、何も期待していない。

 それが律の嘘偽りのない本心であった。