物心ついた時には不思議なものが見えていた。
他の人には見えないものと大真面目に会話して、大人にも子供にも気味悪がられた。
 不思議なモノたちの忠告を素直に人に伝えれば嘲笑われ、しかし相手が忠告に従わなかったが故に不幸に遭うと次第に恐れられるようになった。

 そのうち、自分の見えているモノたちは大多数の人々には見えていないこと、ほとんどの人は自分が見聞きできない物事は信じようとしないことに気が付いた。
 そして自分とは違うものを見聞きできる存在を忌み嫌い、排除しようとすることにも。だから、人を遠ざけた。

 常に人当たりの良い笑みを浮かべて穏やかに振舞っていれば、むやみに敵視されることはない。
 誰に対しても当たらず障らず、適当に持ち上げつつ踏み込まれないように一線を引いて接するように心がけていれば、少なくとも穏やかに過ごすことは可能なのだ。

「それで本当に良いのかい?」

 ふわりと微笑んで『彼』が言う。

 何を当たり前のことを。それで良いに決まっているだろう。
 いつだって君が寄り添ってくれているのだから。

 俺が欲しいのは、俺が興味があるのは、この世で君ただ一人なのだから。

 そんな静かで穏やかだが、人の気配のなかった俺の世界にけたたましい騒音が訪れたのは、ある秋の日のことだった。