* * * * * *
 
 彼女は、砂のように溶けていった。
 自然の恵みに帰るように、砂が風に舞うように。
「ッ……、ッッ……。」
 後ろからはすすり泣く夏音の声が聞こえた。
 涙をこらえる竜也の声だって、鮮明に聞こえる。
 ……みんな、終わったよ……。
 僕、終止符打てた……。
 その場に僕は膝を着いて倒れ込んだ。
 ポタポタ、と顔の真下に模様ができる。
 水が滲み渡る模様。
 
 ……僕、泣いてる?
 
 これは、感動の涙か。怒りの涙か。それとも、安堵の涙か、……悲しみの涙か。
 分からない。感情がごちゃまぜだ。
 あぁ……、みんな。僕たち、三人しか残れなかった……。
 ここに来て、どれくらい涙を流しただろう。
 何人もの仲間が瞳を揺るがせただろう。
 残酷な裏切りを見せつけられて、最高な青春、というのも知れて、本物の自分を探し出せて……。


 
あぁ、遙真。
 僕、まだ君に言いたいことが沢山あるんだ。竜也を大切にするって言ったくせに何やってんだよ。
 僕も、竜也みたいに大事にしたい、って言ってくれたのは誰だよ。
 君は主張が弱い癖に、人の穴を突くのはほんと上手いよな。一生コマとして動いとけ、って言ったのに……。
 交渉の条件を一瞬で破りやがって。
 ……けど、お前の成長したい、っていう気持ち。今の僕なら共感出来るかもしれない。
 大切な何かを守りたい、って……。お前の弟から学んだ。流石だな、お前の弟。
 ほんと、誇っていいよ。……ほんと、誇ってやれよ。
 


あぁ、凪紗。
 僕、元々お前みたいなうるさい人、嫌いだったんだよ。そういう奴ほど、何も考えてなくて、人の弱みによく漬け込んできて、陥れてくるんだ。
 ……なのに、お前は違ったよな。
 周りのこと最優先で動いてさ、急に青春がしたい、とかバカ言って。
 ……結局、僕達を和ませる目的で言ったんだろ、どうせ。
 ほんと、周りをよく気遣えるよな。
 ……君みたいな人が世界中で溢れてくれたらもっと生きやすいのに。君みたいな人が周りに居てくれるだけで生きようと思えるのに。
 あぁ……、どうか、もう一度会えたのなら。
 もっと青春の仕方、教えてくれよ。
 

あぁ、湊。
 ほんと、お前はお人好しすぎなんだよ。何、騙されて殺されてんだ。
 もっともっと……、お前のいい所見つけさせてくれよ。話したかったよもっと。
 ……僕、思ってたんだ。玲於奈に目をつけられ始めた日から、君はなるべく一人で行動していたよね。
 絶対に偶然なんかじゃない。
 僕たちを巻き込むまいと、君なりのやり方で、僕たちを守ってくれていたんだろう?
 分かるよ……。頼れよ……。
 一番最初に殺されて、さぞ怖かっただろう。さぞ孤独だっただろう。
 ……守ってくれて、ありがとう。

 
あぁ、智。
 本当にお前は臆病だよな。……なのに、人一倍一途なヤツめ。最後の最後まで陽菜を守ったんだろ、僕、知ってるよ。わかってたよ。あの光景で。
 ……勇敢だよな。どうやったらそんな勇敢さが出るんだよ。いつものお前とは見違えるほど。
 恋、ってのはどんなんなの。そんなに、自分自身を根本から変えれるほど、力があるのか?
 僕、した事ないからわかんないんだよね。そんな力の出し方ががあるのなら、是非僕も知りたい。
 弱っちいくせにかっこいいとか、反則だろ。
 ……先輩だろ、色々知らないこと教えろよ。……何、いなくなってんだ。……ばかやろう。
 

あぁ、陽菜。
 僕から見る君は、わがままで自己中心的で、大嫌いなタイプだったよ。極力関わりたくもなかった。
 ……なのに、君はあの中で人一倍輝いていたよな。……どうせ、バカはバカらしく、人生を謳歌していたんだろ?
 ほんと、それで気を抜いて殺されるとか、人生それで良かったのか?
 ……自分の知りたいことはちゃんと知れたか?
 どうやったら人生が楽しくなるのか。まだまだ僕は知りたい。やっと、手がかりを掴めてきたって言うのに……。
 素直になる、って難しいよな。抜け駆けなんて酷いぞ……。
 

あぁ、玲於奈。
 君は本当に最初から最後まで正義感の強いやつだったね。そのせいで利用されるとか、逆に異常じゃない?
 ……僕は、ルールとかそういうの守る意味がわからないんだ。こんなことを言ったら、君に怒られるんだろうね。
 ……君に怒られてみたいな。きっと、本気で反省するまでウザイほど詰め寄ってくるんだろ?
 でも……、そういうのも思いやりだって、言われたからさ。
 そういう思いやりも、感じてみたいよな。
 ……だからって、正義のヒーローぶって自爆するとか、ほんとバカだ。

 

あぁ、……─────恵舞。
 本当に君は、生き方が下手くそだ。僕は学んだんだよ。どんな状況でも、誰かに相談してみる、って。
 ……君もあの時、親友にでも相談できていたら、未来は変わったんじゃないのかい?
 ……自らを傷つけながら、孤独を選ぶ道を歩まなくても良かったのかもしれない。
 それこそ、君が夏音と一緒に探していた、【ハッピーエンド】になったのかもしれない。君とって、あれは単なるアリバイ作りだったんだろうけど、意外と本気で探していたんじゃないのかい。
 幸せになる方法……、君が求めそうな答えだ。
 君を見ていると、本当に君は根の優しい人間なんだろう。……だからこそ、自らを犠牲にしてピエロを演じたんじゃないのか?僕たちが躊躇いなくマーダーを処刑できるように。
 ほんと……、お節介だよね。君は生きるのが下手で……。隠すのが上手い。弱いお子ちゃまな自分自身を覆い隠すように、仮面を永遠と着けていたんだろう。
 ……もう、仮面は付けなくていい。
 心安らぐ自分の居場所を見つけて欲しい。
 ありのままの自分であって欲しい。


 ……みんなに言いたいこと、話したいこと、聞きたいことが溢れてきて止まらない。
 もう、こんなことを考えても、意味ないのに。みんなとは会えないのに。
 せっかく……、見つけた居場所だったのに……ッ。
 後悔、ってこういう事なんだと、身に染みて感じた。
 こうやって乗り越えてみんな人生を歩んでいくのか?
 なんでこんな残酷なことを乗り越えられるんだよ、。
 僕は……、僕は……ッ。
「みんなぁ……ッッ。」
 涙が溢れて止まらない。
 涙なんて、枯れることはないんだ。出しても出しても、次々に溢れてくる。
 体の水分を全て出すかのような勢いで。
「ッ、……っ。」
 その時、僕の肩に手が置かれた。
 小柄でも、ゴツゴツして、豆のできた鍛えられた手。
「津……。」
 その一言に、僕は顔を上げた。
 そこには、涙でぐしゃぐしゃな中、ニカ、っと笑っている竜也の姿。
 その隣にも、眉を下げて笑っている夏音。
「っ……。」
「終わったな……ッ!!」
「ッっ……。」
 その一言で、さらに涙が溢れてきた。
 ……けれど、さっきまでの涙とは違う。
 心から安心するような、……そんな涙。
「うん……っ。」
 僕も、その笑顔に答えるように、笑って見せた。
 グラウンドの上に浮かぶ空を見上げると、山々が連なる地平線の切れ間から、オレンジ色の朝日が射していた。
 ……この三週間で、色々なことがあった。
 けれど、全てが全て否定し切れるものじゃなかった。
 このゲームは、終わりを告げる。
 
 【ハッピーバッドエンド】

 確かに、殆どみんな僕たちを置いていっちゃったり、自分の愚かさや、人間の醜さを体感させられるほど、最悪なゲームだった。
 ……けど、それを上回る程、

 素敵な出会いをくれて、
    何が善で何が悪かをしっかりと示してくれて、
  本当の自分を見つけ出すことが出来た。
色々な人とよりを戻すきっかけをくれて、
     時には切り捨てることも大切だと学べた。
   自分を犠牲にしてでも助けたい、と思える心も、

      何が本当の絆で。ならば、
    逆に上辺ズラの絆には、価値がないのか。

 そんなことは決してなくて、全て、その奥深くにある何がが共鳴し合えば、どんな絆も"本当の絆"と呼べるほど強く結ばれる。
 そんなことを教えてくれた三週間だった。
 差し込む朝日を、僕たち三人は何も言わず、ただひたすらに見つめていた。


 
さて。僕達()……──────そろそろ帰されるんだろう。

 
 あぁ、どんな結果になろうとも、何処に帰らされようとも。……またみんなと笑い合える、

 "ごく普通な平凡の幸せ"

 が、訪れますように。
 
    * * * * * *