僕は、左腕に矢が刺さった高瀬 恵舞を見下ろした。
その手前には、血の海に倒れている遙真。
─────間に合わなかった。止めれなかった。
足元も覚束無い体で、勢いよく屋上へ飛び出した時には遅かった。
血濡れたナイフを持った高瀬 恵舞は、倒れた遙真の前に突っ立っていた。
「っっ……!!!」
「ッ……。」
その瞬間、顔が青ざめた気がした。それと共に、床にナイフが落ちる音がする。
高瀬 恵舞は震えていた。
その一瞬、この二人の間は本当に時が止まったように思えた。
息を吸うことすらも忘れてしまう。目を閉じることすらも忘れてしまう。
「っ!!」
その時、僕は勢いよく息を吸って、その場を駆け出した。
手を伸ばした先は、床に放置された血濡れたナイフ。
「ッ!!」
僕の行動に気づき、高瀬も咄嗟に息を吸い、足元に手を伸ばす。
その一秒も満たないその時間で、決着が着いたも同然だった。
血濡れたナイフを手にしたのは……
僕だった──────。
後ろから、歩み寄ってくる竜也と夏音の温もりが感じる。
「夏音、竜也。よくやったよ。」
「おう……。」
「う、うん、」
二人も、きっと詳細は知らないんだろうな。
なのに、ここまで期待に応えてくれて……。
「……っざけんじゃないわよ……。この裏切り者ッ……!!!」
目の前に座り込む高瀬 恵舞は、もう人間じゃなかった。
化け物だ。怪物だ。
「裏切り者?どの口が言っているんだ?」
「ッ……、どこから私に気づいていたのッ?上手くやれてると思っていたのに!!」
「どこから?」
僕は、今まで集めてきたピースを一つづつ合わせて行った。
「上手くやれていたよ、本当に。……でもね、僕が居たから、お前に勝ち目なんてなかったんだよ。どんなにお前の特技が最強でもな。」
「は……、どうして知ってるの?心理学のことを……、誰にも言っていないはず……。」
「わかるよ。なんでって?─────みんなの為にも、一から説明してあげようか。」
ピース①:【九月二十七日 金曜日】〜〜〜〜〜〜〜
それは、最初の最初で手に入れていた。
役職を確認した時から、異様な雰囲気を高瀬 恵舞の方から感じたんだ。
『どうしてこっちを見ているの……?』
大きな体育館、参加者十人の生徒が集まった中で、壁に寄っ掛かり、
互いに見つめ合ったあの時間。
相手は必死でお得意のポーカーフェイスをしたんだろうけど、僕からしたらそんなの意味ないからね。
体育館全体から感じる、不安、絶望、焦り。
その中から唯一違いをきたした、高瀬の"悪心"。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「それが、高瀬 恵舞の周囲から強く感じ取れたんだよ。僕の生まれ持った能力さ。」
「ッ……、」
この時点で、僕はもう高瀬 恵舞に賭けた立ち回りをしたんだ。
その為にあの日、─────遙真と交渉をした。
ピース②:【十月六日 日曜日】〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あの時、なんで僕が自ら君たちを差し置いて、高橋 陽菜達の後処理をしたと思う?
その鍵は、あの時放った、夏音の発言だよ。
高瀬 恵舞の、あの包帯をも通り抜けて血が滲み出す程のあの怪我。
普通、あぁはならないだろ。
……予想通り、高橋 陽菜の爪は皮膚やら皮やら血やらが詰まっていて汚れていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「あの時、肉を抉るほどの力で抵抗されたんじゃないのか?」
「なんでそこまで……。」
「それに付け加えをするとね、陽菜の肩だけ深いナイフの傷があった。きっと、最初の大きな一発だろう。」
それを告げてもパッとしていない竜也と夏音。
「刺されていたのは右肩だ。高瀬 恵舞。お前、何利きだ?」
高瀬 恵舞は、左利き。どうせ、左でナイフを持って、陽菜の右肩を刺したんだろう。
こればかりは逆転の一枚じゃなかったから可能性は無知だってけれど、僕の推理は意外にも当たっていた。
ヘタァ、と床に両手を付く高瀬 恵舞。
「まだ他にもあるぞ?夏音たちは騙せていたとしても、あまり僕を見くびらないでもらいたい。包帯なんざ、しっかり止血すれば20分程度で治まるんだよ。全く、高瀬 恵舞の傷は治まってなかったもんな」
「あァ……ッ。」
ピース③:【十月八日 火曜日】〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それは、菅原 玲於奈の伝言だ。
『私は嵌められた』
玲於奈は序盤からどこかおかしかった。それも、高瀬 恵舞が玲於奈と密会をした時から。
異様に僕たちと合流しなかったり、一人行動をしたり、誰かを探るような様子もあった。
そんな玲於奈を利用したのはお前なんじゃないか?
どうせ、浜崎 湊のありもしない容疑を伝えて、秩序を重んじる正義感のある玲於奈に漬け込んだんだろ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「最初は殺すのも躊躇いがある。様子見をしようとしたんじゃないか?図書室の隣にあるトイレに居たのも、意図してたんじゃないか?犯行中、盗み見してたとかな。」
「……。」
高瀬 恵舞は何も言ってこなかった。ただ、自分の下にある地面を見つめているだけ。
そんな高瀬 恵舞を前に、僕はまだまだあるピースを並べた。
ピース④:〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
これは憶測に過ぎないけど。
今週の初めから急に夏音と行動しだしたのも、意図だったんじゃないのか?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「え……。そういうこと……?」
空気には少し似合わないような声が、耳に入ってきた。
「そういうことって……、なんのことですか?」
まだほかにもピースが出てくるか。
「詳しく聞かせてくれ。」
「え、えっと……」
「や、やめて……ッ!!」
ピース④:【十月十五日 火曜日】〜〜〜〜〜〜〜〜
あの時、私がこのゲーム、【ハッピーバッドエンド】の事を庇った時、異様に恵舞ちゃんの地雷を踏んじゃったの……。
『もし自分が、"強制的にマーダーにさせられた"って考えたら感謝できる人居ないでしょ。』
……って。
確かに、あの時恵舞ちゃんはマーダーの肩を持ってた。
それに、私が【バッドエンド】にならないように、対策を立てようって言った時、最初は否定的だったのに、急にやる気になって……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「なるほどね。それで上手く七峰 凪紗から離れれる口実を作ったって訳か。」
「ッ……、ちがう……!!」
否定するのも当たり前だろう。
「──────あともう一つあるんだよ。決定的な証拠が。」
僕は、睨みつける高瀬 恵舞を前に、こんなものを差し出してみた。
─────血液の入った試験管。
「確証のピース。ラストに手に入れたんだ。」
ピース⑤:【今から一時間前】〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
この時、決定的な証拠を手に入れたんだ。
薄暗い保健室の端に置いてあった試験管。
あの時、僕はそれを握りしめて保健室を駆け出したんだ。ここまでは知っているだろう?
その後の話をしよう──────────。
* * *
なぜ僕は、これまでこれを忘れていたんだ。
あの時、遙真を止める口実も、これで一発だったじゃないか。
〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*
「甘い考えとか……、一歩たりともした事ない!!」
お前は一生コマのままで、操られてればいいんだ。自我を持つなよ、そう言う……、条件だっただろうが!!
「……────お前が菅原の死で、随分大人しくなったのはわかってんだよ!!!」
初めて頭が真っ白になったあの日。
あんな事、生まれて初めてだった。
「人間関係に興味無さそうにしやがって、お前も立派な人間じゃねぇか。どうせ、自分のせいだとか追い詰めてんだろ!!……俺は、一刻も早くここから出てぇんだよ。弟を……出してやりてぇ。あいつに普通の暮らしをまたさせてやりてぇ。でもな、それはお前も同じだ!俺からしちゃあ、お前も可愛げのある弟の、可愛げのある友達、後輩なんだよ、!!……独りで全部抱え込むお前に腹が立つ……。……俺みてぇで苛立たしい!!だから、俺は絶対に行くんだよ、もう、大切な奴は悲しませねぇ、お前も含めてな─────……ッ!止めるもんなら止めてみろ!!!」
……ざけんなよ。
なんだよ、僕とお前からしたら僕たちの方が赤の他人だろ?なのに何で、僕に情なんか移してるんだよこいつ。
訳わかんねぇ。
兄弟揃って、かっこつけやがって……ッ、
〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*
あの時、目の前のことに気を取られすぎて、そんな暇は無かったけれど、それよりも前からこれを利用しておけば。あの時、ちゃんとルールを聞いておけば……ッ。
僕は、はぁはぁと息を荒らげながらグラウンドの中央へ走っていた。
まだ外は暗い。けれど、若干薄暗い程度。
クソ、この体体力無さすぎだろ。こんな事になるなら、ちゃんと運動しとくべきだった。
……これが証明されれば、遙真の犠牲は必要なくなる。あいつが……、死ななくてよくなるんだ。
だからこそ、一刻も早くしなければいけなかった。
そんな僕が向かった先は、校庭にある大きなモニターの真下。
何故ここに向かったのか。
僕は、手に持っている試験管を見つめた。
〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*
「あぁ、これ?転んで顔守ろうとしたら擦りむいちゃって・・・」
「ほんとドジだよね〜」
「え、大丈夫?"包帯からも血が滲んでるけど"……」
──────血?
「っ……。」
その他わいもない会話を、背中越しに聞いていた。けれど、僕の本能が感じたんだ。
「あ〜、アスファルトで盛大に転んだから結構いっちゃってさぁ・・・」
アスファルトの上って、何故わざわざ外に行ったんだ。
「────片付け。」
「「「え、」」」
気がつくと、僕は無意識に体が動いていた。
「片付け変わる。」
僕はさっさと三人を追い出して、過ぎ去ったのを確認する。
高橋 陽菜の死体をよく見ると、爪が汚れている。
皮膚や血や皮。
さっきの高瀬 恵舞の血の滲み方を見ると、引っ掻き傷のような線が描かれていたんだ。
……憶測でしか何も言えない。根拠の無い理由は、時に自分を盲目にさせる。
けれど、僕の予想はよく当たる。
もしも、高瀬 恵舞が高橋 陽菜を殺した、と言うのなら。
あの傷がその時のものなんだとしたら、このまだ液状の血液に、高橋 陽菜、芭田 智の他。
─────高瀬 恵舞の血液が混ざっている可能性がある。
僕は、近くにあった理科室から、試験管とコルクとガラス棒を取ってくる。
血溜まりの中を均等になるように混ぜ合わせる。
……人間、増してや死人の出した血を扱うのは、流石にいい気はしないな。
自分の手に付かないよう慎重に試験管に入れる。
こんな場所に閉じ込められていては、DNA鑑定など以ての外だろう。けれど、取っておくに越したことはない。
……これを使える時が来るといいけど。
〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*〜〜〜*
あの時、僕は忘れていたけれど、これがあった。
DNA鑑定など、そんな賢いことはしなくても良かったんだ。
目の前の見慣れない機械に試験管をセットする。
「─────嘘発見器。」
【*たった一度だけ、"嘘発見器"という機械を使用できます。】
幸い、誰もこの機械を使ってはいない。マーダーもこの機械は盲点だった模様だ。
……これが本当に正しい判断を下すかどうかは分からない。出た結果を鵜呑みにできるほど信用がある訳でもないが、この際、どちらに転んだって僕のやるべきことは決まっている。
「インチキだと許さないからな。」
「──────ご安心なさって下さい。全て正常に作動しております。」
背後から虫酸の走る声が聞こえる。
「"嘘"発見機ですからね。貴方様に限ってそのような失態はないと思われますが、ここで足を滑られては面白くな……」
「さっさと失せろ。今からもう、お前に構ってる余裕なんてないんだよ」
僕は、不機嫌な程にゲームマスターを突き放した。
「……。貴方様なら、もう気づいて居るのでしょう?──────死者の行方。」
背中越しだと言うのに、ゲームマスターの冷たく鋭い視線を浴びているのだと実感する。
「……。」
……やな事を聞いてくる。今はそんな暇じゃないって言うのに。
「そんな必死に抗って。結局は【バッドエンド】を迎えるのですよ?」
「うるさい。死者は死者だろ。もう死んだんだ。」
「……。」
それだけを言うと、ゲームマスターは去っていった。
クソ、時間取られたな。
僕は、もう一度目の前のことに意識を集中させる。
冷や汗が出る。これで……、全てが決まる。
静かに僕は口を開いた。
「……この血液に、──────高瀬 恵舞の血は入っていない。」
嘘発見器の小さなモニターに移る是か非。
それを見た瞬間、僕の口は不覚にも綻んだ。
【NO】
……やった、!
空を見上げると、まだ日の出では無い。けれど、時間が無いのは確か。
でも、これで。これで、遙真は……!!
その時だった。悲鳴が聞こえたのは。
* * *
ここからは、もう。………………わかるだろう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「なによ、それ……。」
「お前は上手くやれていたつもりでも、意外とボロがあるんだよ。ましてや、僕の目の前ではほんの少しのボロも見過ごされない。」
「そんなの……、勝ち目ないじゃない……。」
目の前で、頭を抱える高瀬 恵舞。
左腕はただ出血していた。
「勝ち目?最初から勝ち目なんてないんだよ!!お前は……、処刑されて詫びるしか方法がないんだよ!!」
「津……っ。」
誰かをこれ程までに怒鳴りつけることなんて、生まれて初めてだ。
その初めては、どうしようも無いほどに感情に任せた負の言葉だった。
「お前は、何人の命を奪った……。何人の仲間を殺した?!許されると思っているのか!!」
「ッ……、」
キッと高瀬 恵舞を睨みつける。
高瀬 恵舞は、後悔するように、地面に這いつくばって俯いていた。
……と思った。
「……─────────はぁ?そんなの……、」
「恵舞ちゃ……ッ」
「そんなの、知らないわよ。」
顔を上げた高瀬 恵舞の表情は、酷く歪んでいた。
「……お前は本当に人間か?」
「えぇ、人間よ。醜くて穢れて、結局は自分が一番の人間!!私は、マーダーに選ばれた。だから、その責務を全うしただけ!!ゲームは成り立たないと面白くないでしょう?」
どす黒い感情がよく見える。
やっぱり、こんな奴が嫌いなんだよ。
上辺ズラは良い奴ぶっこいて、心の中では貶して見下して、哀れんでんだ。
「それで、大切な親友を殺せるのか……」
「えぇ、殺したわ。生きるためだもの、」
「クラスメイトも……、」
「あんな奴、そもそも眼中に無いわ。あんなわがままな女、」
「後輩の兄も……、」
「別に私にとっちゃ赤の他人だもの、」
「その友も……、」
「あぁいう主張の弱い男が一番嫌いよ、」
「同級生も、尊敬する先輩も……、」
「はは。……それは、あんたたちが殺したも同然でしょう?」
乾いた汚い笑みを浮かべるマーダー。
「もう……、口を開くなよ。」
本当に哀れで仕方がない。
「ッ……、何、惨め?哀れ?思うなら……そう思っとけばいいじゃない!!」
「恵舞さ……、」
「そんなんなら、あんた達がマーダーすればよかったでしょう?!!」
「「「ッ……。」」」
その一言は、僕たちの脳内に響き渡った。
「……汚れ役をやってやってるのよ、ありがたいと思いなさいよ!!あんた達が私の立場だったら、どうしてたのよ!!どうせ……、お前らも人殺しになってたのよ!自分のことしか考えられない人間にね!!!」
フーフー、っと獣のような姿に、同情と、やるせない気持ちが重なってゆく。
「……──────恵舞ちゃん。本当はやっぱり……、辛かったの?」
「ッ……、同情してんじゃないわよ……、いつも安全地帯から他人事のようにゲームに参加していた間抜け共が!!!」
「同情とか、そんな安っぽい言葉じゃないよ!!!」
「そうっすよ!!」
二人からの言葉に、高瀬はピクっと反応した。
「私には話して欲しかった。あの時、少しでも……1ミリだけでも話してくれてたら、もしかしたら……!!」
「それでどうにかなったわけ……。」
「ッ……。」
「死ぬのは怖いでしょう。わかってる?私はマーダーよ。私を救おうとすれば、あんた達は負けて死ぬ。自ら【バッドエンド】にでも行くつもり……ッ?……ッ、舐めてんじゃないわよ……ッ。」
すると、高瀬 恵舞の右足に力が入るのがわかる。
逃げる気だ。
「暴れるのもいい加減にしろ。」
そんな高瀬 恵舞の足にナイフを刺して動きを止める。
「ッ。……………………ッ、だって……ッ。だって……ッ。」
僕達は目を瞠った。
目の前に見える光景。それは────……
あんな凶暴な獣のような目をしていた彼女は、
か弱く幼い子供のように ─────しゃくりを上げて涙を流していたのだから。
「しょうがないじゃない……ッ!!!」
「だって……、だって、私だって人間よ……ッ、立派な人間なんだもの……ッ。生きてるの、命を尊いて居るからこそ、死ぬのが怖いの……ッ!!そりゃあ……、生きようとしちゃうのが普通でしょ……ッ?私はあの時、十人の中から選ばれたの、選ばれちゃったのよ……、どうしようも……ッなかったの!!私の運命は、あの時で決まってた!!!後悔で生きるか、無惨に死ぬか。その二択しか……なかったんだもの……ッ。全員で生きて帰ろう、とか……。みんなが希望を胸に過ごしている中、ずっと私は孤独だったのよ……ッ!!みんなと生きて帰れないもの、絶対にッ!!!私だって……、みんなと笑って一緒に帰りたかった!!私の特技だって、みんなのために活かしたかった!!!私も……、感動の結末を互いに喜びたかったッ!!!!」
それは、怒りじゃなかった。
不満じゃなかった。
恨みじゃなかった。
ただただひたすらに……、人生に絶望して泣いているか弱い少女だった。
「なんで……。なんで私なの……。なんで、殺さなきゃいけなかったの……。みんなみんな、ゲームが進展していくことに、自分を見つけて、愛する人を見つけて、大切な人を守れて……ッ、成長できてるって言うのに……私は……。そのチャンスすら与えられなかった。見つけたかった愛も、いつもいつも嘘をつく自分も、誰かに、本当の自分を打ち上げれるように、成長したかった……ッ!!!!」
小さい子供が、わんさか泣いているように、とても幼く見えた。
「そんな私に……ッ、どうしろっていうの……ッ。」
「恵舞ちゃん……。」
……この世界、腐った人間は何万といる。
けれど、根元から腐っていた人間は、居ないのかもしれない。
「私は、ただ、みんなを成長させるための道具でしか無かったの?狂いに狂ったピエロ役を演じるのも、……もう、何もかも疲れたッ!!!!」
現に、彼女はただただ生きたいと切望する純粋無垢な女子高校生だったのだから。
「……んな事言われて……、何も言えないじゃないか……。」
くっそ、と僕は地面を殴った。
独りが辛い事を知ってるからこそ、僕は尚更彼女を責めれなかった。
……けれど、彼女が許されることは無い。
どんな理由があろうとも、彼女は人を、仲間を殺した。たった一人、自分の為に。
「……ッ、高瀬 恵舞。」
「何よ……ッ。」
小さい子供のようにぶすくれて突き放す高瀬 恵舞。
「君のしたことは許されない。君はこの先もずっと、消えない名を残す事になるかもしれない。」
「……。」
「─────独りは辛かったよな。」
「ッ……!!!」
「同情の言葉なんて、求めていないのかもしれないけど、君の気持ちは、こんな僕にでも理解できるから。」
「……ッなによそれ……。ほんと、意味わかんない……。」
「……今まで犯してきた罪を後悔と共に反省するんだ。」
「……。」
「そして、──────耐えかねてきたこの地獄から、解放してあげよう。」
「っ……、」
僕は、彼女の前にナイフをゆっくりと振り上げた。
彼女の顔は手元のナイフでよく見えない。
「本当にごめんなさいッ……。」
その一言を告げた後、僕はそのナイフを振り下ろした。
「──────そして、ありがとう。」
「ッ……」
一瞬見えた、あの何もかもから解放された安堵の笑顔を、僕は一生忘れることは無いだろう───────。