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俺は君と出会っていなかったら、いつも通りの否定され、親が作ったレールを歩き続けていただろう.....

**

「君達はなぜこの学校の選んだんだ!!この学校に勉強したいことがあったから来たんだろう!?」

俺のクラスは今、説教をされている。なぜかというと先生が授業を忘れて遅れたことに先生がなぜ呼びに来なかった、とキレたからだ。
窓の外の桜を見ながら理不尽、と心の中で小さく呟いた。

「おい!柴田!話しを聞いているのか?!この学校に学びたいことがあるから受験したんだろう?もっと真面目に話しを聞け!」

と先生の怒りの矛先がクラスではなく俺に向かった。俺は、

「すみませんでした。」

と感情のない声色で謝り、また桜を見つめながら中学3年生の受験期のことを思い返す。

つむぎ
「紬、受験する学校はここにして。」

突然母親から言われた言葉。そんな母親の言葉を前にして俺は

「受験する場所は自分で決めたい。」

と母親に久々に意見を言った。幼い頃から母親や父親から俺の意見は受け入れてもらえない。もっと鋭い言葉でいうと否定されていた、ということだ。

そんな環境で育った俺は親に意見を言うことを諦めていた。でも、受験は人生のターニングポイント。ほぼ親のレールみたいな人生を進んでいても少しは自分を入れて分岐点を自分の納得するところでつくりたい。そう考えたからだ。

でも、そんな俺の意見はまた否定された。母曰く、紬にはここの学校は無理、だそうだ。
その晩、俺は父の部屋に呼び出された。俺が知らない間で母は父に昼間に俺と話したことを相談していたそうだ。それなら話が早い。もしかしたら、父は俺の意見を聞いてくれるのではないかと思ったからだ。
けれども、俺の期待は簡単に打ち砕かられる。父からは

「お前にこの学校は似合わない。」

と言われた。
父と母から反対されても、俺はこの学校を受験したいと初めて強い思いを抱き何度も親を説得しようとしたが、結局、紬にはこの高校以外は行かせないと何度言ったら分かるの?と怒られてしまった。
また親は俺の意見を否定する。俺には努力するという選択肢も与えてくれないの?と夜な夜な枕を濡らした。

俺は諦めきれなかった。
どうしてもその学校に行きたかったため学校の先生に相談したところ、受験校を決める三者面談で説得を手伝うと言ってくれた。もしかしたら!とまた期待をする。
三者面談の日、先生と俺は必死に説得したが、親にその声は届かなかった。

そのまま受験する高校を決める日が迫り、親を説得しきれなかった俺は親が言った高校を受験するしか選択肢がなく、成績も安全圏内だった俺は見事受験に合格した。

親は満足そうにしていたが、俺はほぼ絶望状態。知り合いの1人もいない高校に通うなんて...新学期に期待なんてするのはやめよう、そう思った。

俺は嫌な過去のことを思い返しても面白くないと感じ教室に意識を戻した。
あれ、まだ先生が説教をしている、いつまで続くんだろう。
結局、授業終わりのチャイムがなるまで先生は説教を続けた。

**

はぁ、散々な授業だった。と伸びをしながら考えていたら1人の男子に声をかけられた。

「なぁ!バレーしようぜ!」

        かいと
とその男子、澤村界斗は言う。
バレーとはバレーボールのことだ。踊る方のバレーではない。俺はバレーしようぜという言葉で今が昼休みだということに気づく。
やばい、まだ昼飯食べてない...
と小さく呟き、その後に

「ごめん!俺まだ昼飯食ってない!!」

とバレーを断った。断った後気づいたことがある。指が震えていた。やっぱり断ることにも自分の意見を言うことにも勇気がいる。怖さもある。
早く食べて界斗と合流しなきゃと思う気持ちと、あまりお腹空いてないなという気持ちが葛藤していたのでお弁当を一気に口に詰めてお茶で無理矢理飲み込んだ。
俺の母は毎日お弁当を作ってくれる。それも色とりどりで綺麗。多分、母の希望の学校に俺が通うことになったので張り切っているのだろう。そんなことを思いつつもお弁当を食べる手は止めない。
必死にお弁当をかき込んでいたら数人でご飯を食べている中の1人の女子が目に入った。彼女は楽しそうにご飯を食べているけれど、あまり発言をしている様子はない。

俺は、ん?と思った。

側から見ると彼女は楽しそうにご飯を食べている、そう見えると思う。俺も最初はそう見えた。けれども、彼女の目を見た俺は瞬時に彼女のなにかを感じた。その「なにか」の正体は俺には「怯え」に感じた。
高校受験の一件で自分の意見を言うことが怖くなった俺と目に怯えという感情がこもっていると感じた彼女はもしかしたら共通点があるのかもしれないと感じた。
俺は昼食を食べた後すぐに界斗と合流した。界斗は別のクラスの友達とバレーボールをしていたようだ。
俺は友達とバレーボールをしている界斗を見つけても話しかけることができずにただ界斗が気づくまで待っていることしかできなかった。
待っている時間は長くはなかった。界斗は転がったボールを追いかけている時に俺を見つけて友達と離れ、俺の方に来てくれた。

「ごめん気づかなかった!話しかけてくれれば良かったのに」

と優しい声色で少し笑っていた。
そんな界斗に俺は

「ごめん、界斗が楽しそうだったから邪魔しちゃ悪いかなって思った。」

と返した。
バレーボールをしながら会話を続ける。

「界斗」

「どうした?」

「さっき飯食ってたら数人でご飯食べてる女子が目に入ってさ」

「うん」

「その中にロングでおとなしめな女子がいたんだけど名前わかる?」
              みちしろ はるか
「うん、その子知ってるよ。名前は道城 春花。」

「道城 春花?」

「うん、俺もあんま知らないけど清楚系が好きな男子にはモテてる」

「そうなんだ。」

「もしかしてその子のこと気になってる?」
界斗...恋愛脳すぎないか?と思いながらも俺は質問された内容に返答する。

「別にそんな気になってないけど...」

「けど...?」

「道城の目の感情が気になった」

「目の感情?」

「うん、感情って顔に出る人もいるじゃん?道城の顔の表情は笑顔だったり怒ったりで色々変わるんだけど、目だけはつまらならそうな目をしてたんだよね。」

「お前の気のせいとかじゃないの?」

そう言われて俺は一理ある、と思った。俺は彼女の目を見たのはほんの少しの時間。その時間で全てがわかるわけがない。

「たしかにそうかもしれないな。」

俺はそう返した。その後、たわいもない話しをしながらバレーボールを続けた。

昼休みが終わり、五、六時間とまた過ぎていく授業をまたなにも考えずに過ごす。でも、なにか心にモヤがかかっていることに違和感を感じる。やっぱり、昼休みに見た道城の目の感情が気になる。

**

放課後、俺は界斗の帰りの誘いを断り教室に残っていた。
俺はクラスメイトが部活や帰りで教室からいなくなり静まり返った雰囲気が好きだ。考え事に夢中になっているときは下校時間ギリギリまでいることだってある。この雰囲気を楽しみながら俺は桜を眺める。
そんなことをしていた時、制服を着た女子が急いで校舎に入っていく様子を見つけた。
道城春花だ。彼女は教室まで急いできたようで息遣いが少し荒くなっている。彼女は俺を見るなり話しかけてきた。

「柴田君だよね?なにしてるの?」

俺は驚いた。まさか名前を覚えられていたなんて。入学したての頃、授業で数回自己紹介をした。数回の自己紹介で全員の名前が覚えられるわけがない。なのに彼女は全く関わったことのない俺の名前を覚えていた。
もう一つ驚いたことは道城さんに話しかけられたことだ。俺の彼女への第一印象は大人しめな女性。自分から人にあまり話しかけないタイプだという印象が強かった。

「考え事、かな。」

俺は急いで質問の返事を返す。

「そうなんだ。あ、私の名前覚えてる?」

「道城さんでしょ?」

俺は名前を覚えておいて良かったと心底安心する。

「道城さんはなんで教室に戻ってきたの?」

俺が質問を投げると道城さんは

「忘れ物しちゃったんだ。」

とはにかみながら答える。
そんな軽い会話をしていた時、道城さんは突然

「柴田君さ、自分の意見を言うとき無理してるように感じる。」

と言われた。
その瞬間、俺の心臓はドキッと跳ね上がった。なぜ、道城に見透かされていたのだろう。俺はなるべく事実なことを悟られないように声色を意識しながら

「道城さんも友達といるとき発言あまりしないよね。」

と話しの軌道を俺から道城さんにずらした。

「バレちゃったかぁ...」

と道城は意外にもあっさり認める。

「ねぇ、柴田くん。」

「どうした?」

「毎週水曜日の放課後、ここで話すのはどう?」

道城さんから言われた言葉に理解が追いつかなかった。
俺自身、女子と話すことの経験は少ない。でも、道城さんなら、と理解が追いつかないながらも、話したい、と思う自分がいた。

「いいよ。毎週水曜日の放課後ね。」

俺は道城の提案を受けることにした。
今日は元々用事があるから来週からにしたい、という道城さんの要望を受け入れた。
道城さんは教室から出て行き、俺はまた桜を眺めた。

その約束をして、2週間が経った。毎週、俺と道城さんは話している。内容は授業の話しだったり、学校生活だったりの話しばかりだ。俺は道城さんにもう少し踏み込んでようと思った。

「道城さん、趣味はある?」

俺の質問に道城さんは少し戸惑った様子を見せた。

「趣味はないよ。」

道城さんの目を見た俺はこれ以上は踏み込まない方が良い、と感じた。

**

「はい、今日の授業のテーマは人生と夢です。」

先生が言った。

何の授業かというと総合だ。自分の将来をイメージして作文を書くらしい。俺はあまり自分の将来を想像したくなかった。これは「自分の人生」ではなく、「親の人生」だからだ。

ずっと親の言う通りにしかならなかった俺に人生を悩む資格なんてない。持たせてくれない。そう思ったと同時に、未知の世界に踏み込んでみたいという気持ちもあったが、どうせ無理だと考えを掻き消した。

そういえば、道城さんは書けているのかなと思い、席の離れた道城さんに視線を向ける。道城さんの作文はあまり進んでいる様子はなく、道城さん自身も相当悩んでいるみたいだった。

今日は水曜日だ。約束の放課後、静まり返った教室に俺と道城さんの声だけが響く。

「今日の総合で書いた作文、上手く書けた?」

俺は総合の時の道城さんの表情が気になったため質問をしてみることにした。

「あまり書けなかったな。やっぱり将来とか人生とか難しいよね。」

と道城さんはなんてことないかのように返答する。
そんな道城さんに俺はまた、違和感をもった。
違和感を気にしつつも会話のキャッチボールをしていたとき、道城さんが俺に1つの質問をしてきた。

「柴田君はなんで自分の意見を言うことに無理をしているの?」

「なんでだろう、自分でもわからない。」

と、その質問に俺は曖昧な返事をしたが、道城さんは何故か深掘りしたいらしく、

「何か理由があるんじゃないの?」

ときいてきた。そのような会話を何度が続けている間に俺の中の「なにか」が動き始めた。何回目かの質問をされたとき、俺は

「お前になにが分かるんだよ!!親に否定され続けた俺の気持ちが!!!」

と言ってしまっていた。
自分ではこんなことは言いたくない。

「ごめん。こんなこと言って。」

と俺は瞬時に反省し、道城に謝った。
道城さんは俺が声を荒げたことに驚き

「あ、うん。」

と言った。

「ごめん。今日は先に帰る。」

と俺は気まずい空気が漂っている教室をあとにした。
来週、どんな顔して道城さんと話せばいいのだろう。

**

「お前になにが分かるんだよ!!親に否定され続けた俺の気持ちが!!!」

と柴田君に言われた時、すごく驚いた。何に驚いたかというと柴田君が声を荒げたことと、柴田君の言葉の裏にある否定されることが怖いという思い。その言葉に共感できる。私が意見を言えない理由は誰かに否定されることが怖いから。なんで否定されることが怖くなったんだろう...

中学2年生の時に授業で先生から問題を解いてと指名された。元々大勢の前で発言することが苦手だった私は緊張しながらも問題を解いたら間違えてしまった。クラスの人からクスクスと笑われてしまった私は泣きたい気持ちだったけれども我慢した。家に帰って気持ちを落ち着けるために動画を見た。その動画はゲームを実況している動画で、たまに歌もうたっていて見ていてとても楽しい。
これで今日あった事は忘れよう。

それから何日か経った日、友達数人と「推し」の話をしていた。私がいつも見ている動画の人をスマホで見せながら紹介していたら、友達はゲーム下手という言葉や声あまり良くないなど言い私の推しは否定されていった。
友達からしたら軽い気持ちで言った言葉だったとは思うけれども、私からしたら心なく、凄く傷つく言葉だった。そんな嫌な過去。
柴田君の言葉で過去の事を思い出すと同時に柴田君に共感する気持ちがあった。柴田君に共感できる、という言葉を使ったら柴田君に失礼になりそうと思ったけれども、それ以外の言葉が見つからない。困っている時に咄嗟に出た言葉。

「あ、うん。」

私はもっと言葉を考えれば良かったと後悔した。
「ごめん。今日は先に帰る。」
柴田君は夕陽の照らす教室をあとにした。
来週、どんな声をかければいいのかな。

**

俺と道城さんは普段の学校生活では話さない。
目も合わせる事もない。
昨日の一件があったので俺は道城さんを変に意識し、気まずいと感じていた。どうしよう...
不本意だが仕方ない。アイツに頼ろう。
「アイツ」というのは澤村 界斗だ。良く俺に話しかけてくれる。
界斗はちょうど1人でいたため絶好のチャンスだ。

「界斗!昼休みバレーしよう!」

急な俺からの提案に界斗は一瞬驚いていたが、すぐに提案を承諾してくれた。

「いいよ。紬から誘ってくるなんて珍しいな!なんか相談事でもある?」

「そうなんだ。実は昨日ちょっと色々あって...」

「おーい!界斗!こっちきて!」

「あ!わかった!今行くー!」

界斗が別の友達に呼ばれた。

「紬、また昼休みに。」

「うん、わかった。」

俺と界斗の会話時間は2分程度。やはり界斗は人気だなと思いながら自分の席に戻る。俺はクラスの中ではあまり目立つ方ではないけれど、一応話せる人は何人かいる。その中に界斗がいて良かったと思った。

昼休み、俺は急いで昼食を済ませ、界斗と共に体育館へ向かった。バレーボールを取りに行き、パスを始める。

「紬、相談ってなに?」

バレーボールを始めてすぐに界斗が質問をしてくる。

「今ちょっと友達関係上手くいってなくてさ」

「あ〜。それで交友関係が広い俺に相談してきたのか。」

たしかに界斗は交友関係が広い。自分で言ってる事はムカつくけど。

「上手くいってないときは、自分がどうしたいか考えることが1番良いと思うよ。」

「自分がどうしたいか?」

「うん。友達と話し合いたいのか、少しの間距離をとりたいのか。自分のしたいことを考えてみれば仲直りに繋がると思う。」

界斗から出た意見は多分多くの人から賛成されると思う。けれど、俺は自分の意見を確立ささることが怖い。また、否定されるのかもしれない。

「わかった。頑張ってみる。相談に乗ってくれてありがとう。」

俺は相談に乗ってくれた界斗にお礼を言った。
意外にも昼休みは短いものでアドバイスを受けていたらすぐに終わってしまった。

自分で考える、か。俺は授業を受けながら考えていた。
どうすれば、道城さんが納得のいくようなことが言えるのかを。

考えて続けたけれど、答えはでないまま水曜日を迎えてしまった。約束は約束だ。俺と道城さんはクラスメイトが帰るのを見送りながら教室に2人だけしかいなくなることを待っていた。やはり気まずい。どうしたらいいのだろうか。
そう思った俺は道城さんに話しかけた。幸い、クラスには2人だけしかいない。

「道城さん。この間はごめん。道城さんの気持ち考えないで自分勝手な発言した。」

意外にも俺からは謝罪の言葉がでた。俺が考えていたものよりもスムーズだった。道城さんはそんな俺の謝罪を聞いて

「私もごめんね。柴田君の環境とか気持ちとかなにも考えずに踏み込みすぎちゃった。」

と謝罪をしてきた。
悪いのは俺なのに...

「じゃあ、これで仲直りだね。」

「うん。」

「仲直りついでにお互いの呼び方変えようよ!今の呼び方堅苦しいよね。」

「そうかな?俺はそんなに感じないな。」

あれ、俺今、そんなに感じないって言った.....?
絶対、以前だったら堅苦しいって事に肯定していたよな...と俺は気づいた。

「まあまあ!呼び方変えよ!」

「良いよ。変えようか。」

俺は道城さんの提案を受けた。

「じゃあ、私は柴田君から紬くんに変えようかな!」

いきなり苗字から名前に変わった...

「俺は道城さんから道城に変えようかな。」

「えー!苗字じゃなくて名前で呼んでよ!!」

道城が明るく言う。
まあいいか、道城も俺のこと名前で呼ぶから俺も名前で呼ぼう。

「春花さん?」

「はぁい?」

春花さんが嬉しそうに返事をする。
それから俺と春花さんは最初は気まずさこそあったものの楽しく放課後を過ごした。

**

「遅かったね。学校は楽しい?」

家に帰ったとき、母からきかれた。
前の俺であれば楽しいよ。と答えるだろうけれど、今はなにかが変わったような気がして、少し回答を変えてみる。

「前はあまり楽しくなかったけど、今は楽しいよ。」

母は俺の返事に嬉しそうにしていた。

課題をやると言い自室に向かった。
俺の部屋は特に面白味の無い部屋だ。
俺は次の水曜日が楽しみと心の中で呟き、目を閉じた。

**

次の週、月、火と過ぎていく時間が遅く感じる。
水曜日。春花さんと俺はいつも通り話していた。
春花さんは過去の話しをしてくれた。
自分が意見を言えなくなった理由。
好きな事を否定された。
そんなことを言っていた春花さん。
俺と似たような境遇なんだと俺は感じた。
毎週話していくうちに二人の仲が深まっていく気がした。

この関係がいつまでも続くと良いな...

「春花さん、俺達の関係ってどんな関係?」

俺は無意識に春花さんにきいていた。
春花さんは困ったような表情で

「わからない。」

と答えた。

俺の予想は、この関係は皆んなには秘密の相談関係
と思ったがなにか違う。
まあ、ゆっくり探していけばいいか。

「この関係が何かはわからないけど、ずっと続くと良いね。」

春花さんは俺に言った。

「うん。そうだね。」

俺は春花さんに凄く共感できた。

春花さんには気づいた事があったらしい。

「私と紬くんの共通点ってなにか知ってる?」

「なんだろ。わからないな。」

「2人の共通点は、自分を出せないって事だと思うんだ。」

「たしかに。言われてみればそうかも。」

春花さんの意見に俺は納得した。
たしかに、俺も春花さんも否定されることが怖くて自分の意見を言えない。俺が春花さんをみたときに感じた共通点はこれだったんだ。
共通点がわかったところで俺達は1つの約束をした。

「自分のレールを見つけること」

**

俺には目標ができた。
親のレールから外れることだ。
これは春花さんとした約束に繋がる。
レールとは人生のこと。

自分のレールを見つけて歩き出す。
俺がずっと前から願っていたことだ。
願いを行動に移すときがきた!

ー春花sideー

私は、否定されて軌道がずれたレールで元のレールを見つけ繋げることが目標。否定を受け入れなければ前には進めない。自分と向き合い続ければいつか見えてくると信じて今日から私はレールを探す旅に出る。

**

もうすぐゴールデンウィークだ。久々の連休を楽しみにしつつも春花さんと会えなくなると寂しさもある。
この連休は目標達成に繋がるようにしよう。

「お母さん、お父さん、話したいことがある。」

俺は親と話し合おうとリビングに呼び出した。

「なに?話したいことって。」

「俺、小さい頃からお母さんとお父さんの言うこと全部聞いてきたけど、お母さんとお父さんは俺のやりたいことをやらせてくれなかったよね。」

「そんなことないよ。俺らはいつも紬の事を思って」

「思ってないよね?!全部否定されてきた!行きたい高校だって行かせてくれなかった!!習い事もやってみたいことなんて1つもやらせてくれなかったじゃん!!なにが紬の事を思ってだよ!!!」

「紬!!!」

気づいたら俺は親に対して怒鳴っていた。
今までの不満を全て言ってしまった。
育ててくれた感謝もあるのに...

「俺の気持ち分かってよ!」

そう言い放ち部屋に篭った。
ドアにロックをつけていたため親は部屋に入ってこれない。ドアの外から親の声が聞こえたが無視して家での準備をした。

親も諦め、寝た頃俺は春花さんに連絡をしていた。
理由は連休前、春花さんに旅に誘われていたからだ。
ちょうど明日から1人で行く予定だったらしい。俺も一緒に行くことにした。

**

翌日、置き手紙をして家から出た。解放されたと感じた俺から見える世界はいつもより明るいように見えた。

駅で春花さんと待ち合わせていたため、すぐに合流できた。春花さんと俺は始発の電車に揺られながら話しを進める。

「なんで急に旅に一緒に行くって言い出したの?」

「実は昨日、親としっかり話し合ってみようって考えてリビングで親と話してたんだけどやっぱり分かってもらえなくて喧嘩状態みたいになっちゃったんだよね。」

「そういうことね。でも、自分の意思を伝えられるようになったってすごいことだよね。」

春花さんは俺の頑張りを認めてくれる。

春花さんと一緒に旅をしたらなにかが変わる気がする。

ー春花sideー

「ゴールデンウィーク中、1人で旅をしたい。」

私は親に言った。

「1人なんて危ないからダメ!行くなら私達も行くから。」

と親に言われた。
当然止められると分かっていた。でも、ここで親と行ってしまったらなにも変わらない気がした。

「ダメって言われても絶対1人で行く。もしかしたら、友達も行くかもしれないけど、これは自分の人生に関わることだから!!」

初めて強く言い切った。
親は驚いた表情をしていた。

部屋の100円ショップで買ったロックをドアにつけ、ベッドでスマホを見ていたら一件の通知がきた。
紬くんからだ。

「旅に一緒に行きたい。」

そういう内容だった。

当然答えはOK。

時間と場所を決めて待ち合わせにした。

翌日、準備を済ませていた私は親が寝ている時間を狙って外に出た。これからなにがあるかわからない未知の旅だ。

**

電車に乗ったり、バスに乗ったり、夜は安い宿に泊まったりと楽しく、のんびりとしていた。
親からの通知は止まないけれど、全て無視をしていた。
俺は春花さんと歩きながら話しているとトンネルを見つけた。まだ昼間なのでトンネルは真っ暗では無い。
トンネルの標識には東京都と書いてあった。県境?と疑問を持ちつつも通ってみることにした。
このトンネルが県境だとすると、凄く遠いところまで来た。俺達が出発した所は静岡県。何度も電車やバスを乗り継ぎしてきた。
まだ東京都には行ったことがない。どんなものがあるのかとワクワクしながら静かなトンネルを2人で歩く。長いトンネルの終わりが見えてきた。けれども、光っていてその先の景色がよく見えない。その先の景色をみたい。俺は心から強く思った。横にいる春花さんを見てみると、春花さんも目を輝かせている。春花さんは自分の過去を話したときから目の感情が戻ってきている気がする。
トンネルの終わり。見えた先には____

**

ビルが沢山立っていて、空気が悪かったけど、見るもの全てが新鮮な「東京」だった。

東京の駅で適当な電車に乗る。適当な行き先の片道切符を買い、電車を降りたらまた歩き始める。色々な事を話して、見て、感じていくと「自分」のレールが見えてきた気がする。それは、春花さんも同じらしい。

何日か過ごす。もうすぐゴールデンウィークが終わるのでスマホで調べながらのんびり家に帰った。

**

俺達が家に帰ったのはゴールデンウィーク最終日の前日。ただいま。と帰った俺に親は心配した様子で出迎えてくれた。話しをしようとリビングに呼び出され、再度話しをすることになった。俺は最初に

「勝手に出ていってごめんなさい。」

と謝った。
でも親はそれ以上に

「心配したんだからもう2度とこんなことしないで!」

と泣きながら怒った。

もう一度、腹を割って話す。自分の世界を開くために。

ー春花sideー

家に帰ったら怒った母が待っていた。

「何処に行って何をしてたの?」

父も混ぜて、私は、3人で旅の経緯や行った場所などを話す。
話しをしていると自然と涙が出てきた。
親は終始、静かに話しを聞いてくれた。そして、私の悩みを受け入れて、認めてくれた。
その瞬間、私はやっと、自分の感情に素直になれそう。道を繋げられると感じた。

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連休が終わり、学校へ行く。今日は水曜日だ。春花と俺の放課後の約束の日。「春花」と呼び方が変わったのは旅中に変えようと2人で話したからだ。春花は俺のことを「紬」と呼ぶ。待ちに待った放課後、いつも通り俺と春花は話す。

「紬は初めて会った頃と比べると全然変わったよね!」

唐突に春花が言うので俺は上手く返事を返せなかった。

「そういう春花だって、すごく変わったよ。」

俺がそう言うと春花はとても嬉しそうにしていた。

会話の間ができた。

「約束、2人とも果たせたね。」

「うん。」

**

俺は、幼い頃から人生は自分のものではないと思って人生を楽しむと言う事を諦めていた。でも、俺は春花と出会って、旅をして、考えが変わった。
人生という未知な道は人によって簡単に崩されたり、作られたりする。
自分の進む道だけれども、自分だけの道ではないことが面白いと感じるようになった。

「ねぇ、春花。」

「なに?紬。」

「春花と俺はどんな関係なのかな?」

俺は前に春花に質問した内容と似た事を質問した。

「わからない。」

春花は前と同じ解答をした。

旅仲間でも、恋愛関係でもないけれども、ただの友達だけとはいい表しきれないこの関係になんて名前をつけよう。
名前のない関係の俺達は今日もまた未知の道を進んでいく。