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村はずれ、荘園の近隣の山の麓に「レサパン商店」がある。防衛・冒険狩人ギルドの山塞(複数)と並ぶ拠点。

運営・経営者のボスはファルコン・チャン、かつての旧魔王戦乱で限界突破し魔獣レサパン(レッサーパンダ)に覚醒してしまったドワーフ混血のカンフー魔導師。あの原人騎士クリュエル・サトーの同類・戦友らしく、つまり「呼び覚ませ、根源獣性!」「原始、人間は猛獣であった」の気迫で旧魔王による支配時代を崩壊させたらしい。

丸木のコテージのような店に入ると、妙に強そうな眼帯・漢服のレッサーパンダが店の主としてふんぞり返っているのが彼。表向きは道具・アイテムや武器防具を商い、山のエルフ・ドワーフたちとも取引や代理販売している「商人」。

だが、裏では山塞から「処刑による塩漬け肉」を購入して魔族に売りさばく(もちろん自家製造もやっている)。威嚇・恫喝の心理的牽制に加えて、魔族同士の共食い・内紛の促進を目論んだりしている。他にも「魔族向け」の別店舗を裏で経営し、ケシ(阿片)の入った酒や料理を食わせて中毒させたり、敵領域に阿片を流通させたりの破壊工作で暴利。通称「マフィア・レサパン」。

今日も、山塞から牛に荷車を引かせて商品物資と大樽が届いた。あの原人騎士クリュエルと、サキュバス騎士のエルフ少年レオ、他。出迎えたのはスキンヘッドに入れ墨した、いかついエルフの郭(かく)さん。


「やあ、クリュエルの旦那」


「よう、レサパンとこの」


「へい。横口の応接室でお待ちください。ボスを呼んできますんで」


郭さん、店の正面口から呼ばわった。


「ボス! クリュエルさんとこから棚卸です。いつもの取引の場所に案内しました」

「おう! おい、スケ。ちょっと店番代われ」


横口から取引の土間に入るといつもの商売のやり取りがあった。鉱石の加工品や薬草類からの回復薬、皮革からの防具やドワーフ名物の刀剣類も、順番に台の上に並べられていく。

だがそれはあくまでも「話の半分」だった。


「そういえば最近に古代チノ文明式の処刑をやったそうだな?」


レサパン店主、ファルコン・チャンは「大樽」を一瞥する。独特の過酷処刑を教えた創始者ゆえに、察しはついていた。

不吉な大樽の蓋を開ければ塩漬け肉、処刑された凶悪な魔族のなれの果ての姿。一番上には切り取られた生首と手首が載せられている。もう一つの小さな箱には、別途に保存用の食肉加工した臓物が詰め込まれているのだった。

それから、荷車の下の方の小さな竹筒が一山。これは山野で採取した、麻薬効果のある幻覚キノコや毒草であった。


「くれぐれも、こっち側(人間領域)で流通させるなよ」


「うむ、抜かりはない。この手の商品は出来るだけあっち側の飲食店で、その場で魔族の客に使わせることにしている。あっちの領土の人間やエルフは下層の貧民だから、一定ランク以上の店には入れないからな。

下手にそのまま商品で外部に売ると、おかしな転売されたり悪用される恐れもあるが。ただ、最近では麻薬汚染の地区でわざと半分以下の値段で常習者に売って、値崩れでビジネス崩壊させたりもやっている。回復出来ない中毒者は過剰摂取で安楽死させてやるくらいが、最後の慈悲だろうよ」


こういうやり方は、旧魔王戦乱の時代に人間側が魔族側からさんざんにやられたやり方だった(現在も根絶出来ない)。それだけでなく、スパイや買収・脅迫に病毒散布などの卑劣のオンパレードされていた事情がある。だから今では人間陣営側も、同じような卑劣と無慈悲でやり返している。かくして仁義なき戦いは継続中、劣悪で暗黒な、救いようのない社会や国際関係の裏の真実なのであった。