王家主催の夜会会場で、この国の第一王子エルトンが高らかに宣言した。

「ヴィオラ! 今日、この場でお前の罪を告発する!」

 金髪碧眼の美しい青年エルトンは、憎しみを込めた瞳で婚約者である公爵令嬢を睨みつけている。

 そんなエルトンに腰を抱き寄せられながら、男爵令嬢のセアラは夢見心地になっていた。

(エルトン様ぁ、私のためにここまでしてくださるなんて……)

 エルトンがヴィオラを怒ってくれたら、もう誰もセアラをバカにすることはできない。

(良かったぁ。これでもう私は『偽聖女』なんて呼ばれないわ。今までヴィオラ様にいじめられて本当に怖かったけど、もう安心ね)

 安心すると共に、あんなにも綺麗な婚約者ヴィオラより自分を選んでくれたことにセアラは優越感を抱いた。

(自分の婚約者にこんなことを言われたら、いつも澄ましているヴィオラ様もさすがに泣いちゃうわよねぇ?)

 ヴィオラの顔は屈辱に歪んでいると思ったのに、予想外にヴィオラは優雅に口端を上げた。

 そのとたんに、セアラの背筋にゾクッと悪寒が走る。不思議に思っているとセアラの脳内に言葉が響いた。

 ――エルトン殿下、婚約破棄の理由をお聞かせください。
 ――理由はここにいる聖女セアラを虐げたからだ!
 ――まぁ、そこの方が聖女様ですって? しかも、わたくしが虐げたと?

(な、に? これは……?)

 セアラは『未来を予知する記憶のかけら』を見ることができる。この力のおかげで、父は商売に大成功し、その功績で男爵位を授けられた。

 セアラが持つ未来を予知する記憶のかけらは、古(いにしえ)の聖女の力ではないか?とウワサされている。

 そんなセアラに興味を持ったエルトンが、夜会で声をかけたのをきっかけに二人の距離はグッと縮まった。

 セアラはこれまでに何度も未来を予知する記憶のかけらを見てきた。だが、たった今見た記憶は、今まで見てきたぼんやりとした記憶のかけらとは明らかに違う。

 戸惑うセアラの目の前で、現実のヴィオラは、あくまで優雅にエルトンに話しかけた。

「エルトン殿下、婚約破棄の理由をお聞かせください」
「理由は、聖女であるセアラを虐げたからだ!」
「まぁ、そこの方が聖女様ですって? しかも、わたくしが虐げたと?」

 たった今聞いたばかりの会話が、すぐ目の前で繰り広げられている。

(な、何が起こっているの?)

 そのとたんに、セアラは激しい頭痛に襲われた。見たこともない世界の、自分ではない女性の記憶が滝のように流れてくる。

「あっ、う……」

 こらえきれずセアラが頭を押さえると、優しいエルトンはすぐに気がつき「どうしたんだ、セアラ!?」と心配してくれた。

(ああ、やっぱり、私の王子様はエルトン様よね。素敵……ん? エルトン?)

 記憶の中の見知らぬ女性が熱心にプレイしていた乙女ゲームの攻略対象もエルトンという名前だった。そして、こういう展開は、前世で何度も見たことがある。

(前世? はっ!? もしかして、私、乙女ゲームの世界に異世界転生している!?)

 しかも自分はヒロインのセアラで、今は、悪役令嬢ヴィオラの断罪イベントの真っ最中らしい。

 普通ならこれで悪役令嬢が処罰されヒロインは幸せになるが、目の前のヴィオラは余裕の笑みを浮かべて、どこか楽しそうですらある。

(こ、これは……。前世の私が大好きだった悪役令嬢もの小説によくある『断罪イベント返し』なのでは?)

 『断罪イベント返し』とは、悪役令嬢を断罪するはずが、逆に悪役令嬢に断罪され、断罪に関わった一同がとんでもなく酷い目に遭わされるという展開だ。

 ちなみに、断罪返しされたヒロインの多くは投獄ののち死罪。もしくは娼館行きだったり、バカ王子と一緒に平民に落とされ過酷な環境に陥った末に死亡したりする。

「い、いやぁあああああ!?」

 思わず叫んでしまったセアラを、エルトンとヴィオラが驚きの表情で見た。

(し、死にたくない!)

 しかし、セアラはこれまでに『私は未来がわかるから』と調子にのり、いろんなことをやらかしたあとだった。

 まず、セアラは神殿の許可もなく聖女を名乗っていた。このことに関しては、神殿から派遣された銀髪の神官に何度も注意を受けていた。

 この前なんて「この偽聖女が! いいかげんにしろ!」と怒鳴られたので、エルトンに泣きついて銀髪の神官を神殿に追い返してもらった。

 セアラのやらかしはそれだけではない。ヴィオラという婚約者がいるエルトンに言い寄った挙句、人目もはばからずイチャイチャしていた。

 ヴィオラには「エルトン殿下とは、節度を持ったお付き合いをしてください」と何度か優しくたしなめられたが、そのたびにセアラは「ヴィオラ様にいじめられたぁ、こわかったぁ」とエルトンに泣きついた。それを鵜吞みにしたエルトンは、ヴィオラに「セアラをいじめるな!」と声を荒げていた。

 これまでの愚行(ぐこう)を思い出したセアラの血の気が引いていく。

(バカバカバカ! 私ったら何勝手に聖女を名乗っているのよ!? それに、婚約者がいる男性に言い寄ったのもバカだし、家同士の繋がりのために結ばれた婚約者を信じないで、私の肩を持って一方的に罵るエルトンってなんなの!?)

 セアラは、今まで両親に甘やかされて育ってきた。セアラを溺愛している父には「セアラ、我が家のためにも、良い家柄の男を捕まえなさい。セアラはこんなに可愛いのだから、どんな男だって夢中になる!」と言われていた。

(だぁああ!? 良い家柄の男には、すでに婚約者がいるんだって! アンタたちがきちんと相手のことを調べてから私の婚約者を連れてきなさいよ! 私の両親もバカだった!)

 セアラはふるえながら、目の前の悪役令嬢ヴィオラを見つめた。

(よ、よりによって、公爵家の令嬢にケンカを売るなんて、私ったら死にたいの!? しかも、今までの聖女の未来予知って、前世のゲーム知識を断片的に思い出していただけじゃない! 私、本当に偽聖女だったわ!)

 もっと早く転生前の記憶を思い出していたら、いくらでもやりようがあったのに、よりによって今は断罪中。しかも、今からヴィオラに断罪返しをされそうな雰囲気だった。

(どどど、どうしよう……)

 ずっと側で心配してくれるエルトンには、もう『うっせぇ、バカ王子。黙れ』という感想しか出てこない。

(バカ王子が婚約者のヴィオラ様を大切にしていたら、こんなことにはならなかったのに!)

 八つ当たりしても仕方がない。

 セアラは目をつぶると大きく息を吸い、ゆっくりと吐いた。そして、目を開いてなんとしてでも、生き残る覚悟を決めた。

 支えようとするエルトンの手を振り払い、セアラは全力で美しく見えるように淑女の礼(カーテシー)を披露する。

 今までのセアラでは、姿勢を保てずぐらついてしまい、まともな礼ができなかった。それなのに、セアラは「私は聖女だから」と身に着ける努力をしていなかった。そんなセアラが、姿勢を正して優雅に頭を下げたので、夜会会場の空気が変わった。

(よし!)

 ベタベタとくっついていたエルトンから距離を取り、セアラは背筋を伸ばしてあごを少し引き、ハキハキと話し出す。

「ヴィオラ様。今まで大変申し訳ありませんでした」

 ヴィオラの真紅の瞳が大きく見開いている。隣でエルトンが「セアラ、いったいどうしたのだ?」と心配そうだ。

(そりゃそうよね)

 今までのセアラは、常に舌っ足らずで甘えた声だったのに、急に大人びた話し方をしているのだから。エルトンも、さすがにセアラの違和感に気がついたようだ。

 セアラは、悲しそうな表情を作りエルトンを見つめた。

「エルトン殿下、今までのご無礼をお許しください」
「セ、セアラ? どうしたんだ? さてはヴィオラ、貴様のせいだな!?」

 急にヴィオラのせいにしだしたエルトンに、セアラは『どうしてそうなるんだよ、黙れバカ!』と言いたかったがグッと我慢した。

「ヴィオラ様のせいではありません」

 そう、ヴィオラのせいではなく、すべてはセアラのせいだった。しかし、それを認めてしまったら、死、あるのみ。だから、罪は認められない。でも、この場を収めるには、誰かのせいにしないといけない。

(さすがに誰かに罪をなすりつけて、身代わりにするなんてできないわ。だったら……)

 セアラは乙女が祈るように、両手を組み合わせた。

「私は数々の罪を犯してきました。しかし、それは本意ではありませんでした」

 夜会会場のざわつきが収まるまで待ってから、セアラははっきりと言い切った。

「今までのすべては、神による意思だったのです」

 会場が水を打ったように静まり返る。その中で、ヴィオラの綺麗な声が響いた。

「どういうことですの?」

 ヴィオラの顔を見る限り、セアラの言葉を少しも信じていないようだ。

「実は……今までの私の行動は、全て神による試練だったのです」

 エルトンがポカンと口を開けている。

 そんなエルトンを見つめながら、セアラは『アンタ、将来が約束されていて、あんなに優しくて美人な婚約者がいて、何が不満だったの?』と思った。

 もしかすると、生まれながらにすべてを与えられ、完璧で順調すぎたために、エルトンは退屈を持て余し、おバカなセアラを利用して刺激のある非日常を味わいたくなったのかもしれない。

 それは、一時の気の迷いで、エルトンにはお遊びだったのかもしれないが、誠実な婚約者ヴィオラを傷つけた火遊びの代償は高くつく。

(もちろん、私も同罪だけどね)

 罪を犯してしまったからこそ、セアラはここから逃げるわけにはいかない。

 ヴィオラの「神の意志、ですか?」という問いかけに、セアラは静かに頷いた。

「神は、聖女である私に試練を課されました。そして、それは、この国の未来のために、高位貴族男性を誘惑するというものだったのです」

 エルトンに「セアラ? な、何を言っているんだ?」と聞かれたが、セアラも『そうですね。私は、何を言っているんでしょうね?』と思う。

 しかし、生き残るには、もう自分は聖女であるというウソをつらぬいて、これまでの悪行をすべて神様のせいにするしかない。

 ウソがバレたらどうしようという緊張感から全身がふるえて、セアラの瞳に涙がにじんだ。

「神は、この国の行く末を案じておられました」

 すべてがウソではない。正直、このエルトンが将来、この国の王になると思ったら、誰でも不安になると思う。

「私に与えられた使命は、人々の人間性を試し、より良い未来に導くことだったのです」

 会場中の人が戸惑う中で、ヴィオラだけが小さく何度も頷いている。

「なるほど。では、セアラさんは、エルトン殿下の人間性を試すために、今までおバカなふりをしていたと?」

 『いえ、今までは本当に、おバカでした』という言葉を飲み込み、セアラは「はい」と答えた。

 ヴィオラに「セアラさん、では、神の判決はどうなりましたか?」と尋ねられて、セアラはエルトンを見つめた。

「エルトン殿下。あなたは……王の器(うつわ)ではありません」

 今までエルトンを称え甘い言葉をささやいてきた同じ口で、セアラはエルトンに現実を突きつけた。

「なっ!?」

 セアラは『なっ!? じゃねーよ、婚約者に暴言を吐く男を誰が信用してくれるのよ!?』と思ったが、顔には出さない。

 エルトンが「セアラがっ、セアラが言い寄ってきたではないか!?」とキレ出したので、冷たい視線を送っておく。

「確かに私が言い寄りましたが、私を受け入れて、婚約者より優先したのは、エルトン殿下だけですよ?」

 そう、おバカなセアラは、エルトン以外にも、第二王子や侯爵令息、騎士団長の息子にまですり寄っていた。でも、エルトン以外には、はっきりと断られ距離を取られた。

 特に第二王子には、「今度、私に無許可でふれようとしたら君を処罰する」とまで言われている。そのことを説明すると、エルトンはようやく自分の愚かさを理解したのか顔を赤くした。

「誘惑という名の試練を与え人を見定める。これが神の意志でした。そして、エルトン様は神の試練により振り落とされました」

 セアラがヴィオラに告げると、ヴィオラは満足そうに微笑んだ。

「そうですか。セアラさん、ご苦労様でしたね。この件は、わたくしより陛下にご報告いたします。まぁ、このような場での騒ぎですから、もうすでに陛下のお耳に届いていると思いますが」

 まだ王家に嫁いでいないのに、すでに王妃の貫録(かんろく)を出しているヴィオラにおびえながら、セアラは深く頭を下げた。

「ヴィオラ様、今までのご無礼をお許しください」

 ヴィオラは優雅に口端を上げる。

「許します」

 なんとか死罪は免れた。ホッとしたセアラは、全身の力が抜けその場に座り込んだ。本当なら気を失ってしまいたいところだが、そうもいかない。

「ヴィオラ様。エルトン殿下は神の意志とは言え、私に騙されたのです。どうか、ご温情を……」

 クスッと笑ったヴィオラは、セアラの耳元で「それを決めるのは陛下です。……でも、あなたが騙さなくても、エルトン殿下ならいつかはこうなっていたと思いますよ?」とささやいた。

 ヴィオラの言うことはもっともで、エルトンは、セアラがすり寄らなくても、いつか彼にすり寄ってきた別の女性に入れあげて、婚約者をないがしろにしていたと思う。

 ヴィオラは「ですから、婚姻までに破局に追い込んでくださったセアラさんには、わたくし、とても感謝していますの」と、セアラに向かって優雅に微笑んだ。

(ああ、麗しいヴィオラ様が……おバカな婚約者と婚約破棄ができて喜んでいらっしゃる……)

 ヴィオラはセアラに手を差し伸べると、引っ張り立ち上がらせてくれた。

「セアラさん。わたくし、今まであなたが聖女様だって信じていなかったの。でも、神様は本当にいるのね。ごめんなさい、あなたは確かに聖女様ですわ」

 ふわりと微笑みかけられて、セアラは今さら『すみません……違います』とは言えず苦笑いした。

 その後、不思議なことに、神殿にお告げがあり、セアラが正式に聖女と任命された。
 セアラは『神からの神託を受け取った聖女』として神殿に仕えることになる。

(あれだけ銀髪の神官に「この偽聖女が!」と言われていたのに……。よくわからないけど、命拾いできたわ)

 エルトンと無事に婚約破棄できたヴィオラは、誠実な第二王子と婚約をし直し、とても幸せそうだ。

 エルトンは、騒ぎを起こした責任を取らされ、辺境の地に飛ばされた。でも、それほど酷い目にも遭わず、なんとかその土地で名誉を挽回するために頑張っているらしい。

 神殿に仕えるようになってからセアラは、神々しい神の像の前で毎日熱心に祈っている。

(どうか、皆がそれなりに幸せに暮らせますように。そして、聖女に任命される前だったのに、神の名を騙(かた)った私に、天罰が下されませんように。これからは真面目にひっそりと生きていきますので、どうかこれまでのやらかしをお許しください)

 そんな聖女セアラにつけられた世話役は、まさかの銀髪神官だった。

 長い銀髪をひとつにまとめて白い神官服に身を包む青年がギロリとセアラを睨んでいる。

(うっ、よりによって!)

 この青年には偽聖女時代の頭がお花畑なセアラを見られてしまっている。セアラは深々と頭を下げた。

「そ、その節は大変申し訳ありませんでした……」
「顔をあげてください」

 青年の声は落ち着いている。

「私こそ、聖女様の使命を知らず偽聖女などと暴言を吐いてしまい、大変申し訳ありませんでした」
「いえいえ、お気になさらず!」

 青年はフッと笑う。その笑みを見て、セアラは彼もまた乙女ゲームの攻略対象者だったことを思いだした。

(あっ、この人、ゲームで見たことがある! たしか、名前はシリル、だったっけ?)

 今は神官位だが、このあとトントン拍子に出世して大神官まで登りつめるキャラだった。

 輝く銀髪に涼やかな目元が印象的だ。でも、前世のセアラの好みではなかったようで、どんなストーリーだったのかまでは覚えていない。

 うっかり見惚れてしまっていたが、セアラはあわてて首をふった。

(ダメダメ! 私はもういろいろやらかしたあとよ! 乙女ゲームから退場して奇跡的に生き残れたんだから、老後まで反省しながら大人しく過ごすの!)

 聖女になったセアラは、できるだけシリルから距離を取った。世話役なので完全に関係を断つことはできなかったけど、話すときは必要最低限。できるだけ目も合わせない。

(ここまですれば、問題はおこらないでしょう!)

 でも、これだけ避けていても、世話役のシリルはとても誠実で優しかった。そのことに罪悪感を覚えてしまう。

(私がやらかす前だったら、こんなの絶対に恋に落ちていたよー! でもダメだ! やらかした人は大人しく過ごすべし!)

 そんな日々を過ごす中、セアラは最近シリルによく会うような気がしていた。ふと、神殿内で二人きりなったとき。

「セアラ様とお呼びしても良いですか?」
「え?」

「私のことはシリルとお呼びください」
「は?」

 そんなことを言われてしまった。

「な、なんですか、急に……」

 警戒してあとずさると、シリルに壁際に追い詰められる。

「私は、この外見のせいで昔から女性に追い回されてきました」

 セアラはこの言葉を聞いてピンときた。

(あ、あー!? もしかして、避けたら落ちるタイプのキャラだったの?)

 セアラを見つめるシリルの瞳はどこか熱っぽい。

「セアラ様ほど神官としての私に誠実だった方はいません。それがとても嬉しかったのです。それなのに、私はいつしか、あなたのことを聖女様ではなく、一人の女性として……」

(これは私、やってしまっているぅううう!)

 内心で頭を抱えつつセアラは、ぎこちなく微笑んだ。

「シリル様。私達は神にお仕えする身です。その、き、清くあらねば……」

 シリルの指がセアラの髪をすくう。

「セアラ様、この国の神殿関係者は、婚姻が許されています」

(はっ!? そうか、だからシリルは神官なのに、乙女ゲームの攻略対象に入っていたのね!)

 すくった髪に口づけをしたシリルは、悲しそうな笑みを浮かべた。

「セアラ様が私に少しも興味がないことはわかっています。私なんて、あなたに『偽聖女が!』と暴言を吐いた男ですからね。何度もあきらめようとしました。でも、無理でした……私ではダメでしょうか?」

 シリルの色気がすごくて、セアラの頭がクラクラした。

(って、ダメダメダメ! 私はやらかしたあとの痛いヒロインだから、幸せになんてなったらいけない――)

 そのとき、セアラの周囲が光り輝き、優しい声が聞こえた。

 ――幸せになりなさい。あなたはもう十分反省したのだから。

 セアラが「今のって……」とつぶやくと、シリルが「ご神託、ですね」と返す。

(本当に私、幸せになってもいいの? いろんな人を傷つけたり困らせたりしたのに?)

 優しい輝きに包まれたセアラは、ポロポロと涙を流した。

 そして、幸せになる覚悟を決める。

「シリル様。よ、よろしくお願いいたします」
「もちろんです! では、挙式を!」
「いやいや早い早い、友達! お友達からでお願いします!」

 その一年後、異常な速さで大神官にまで登りつめたシリルと、奥ゆかしいとされる聖女セアラが結ばれて国中からお祝いされることになる。




 おわり