新月の前夜に玲奈は再び悪夢を見た。
今までの悪夢は大蛇に締め付けられ殺される夢だったが、この夜に見た夢は少し違っていた。
その晩に見た夢はとても現実味が帯びていたのだ。

住み慣れた屋敷の夢。
何を持ち何故が泣き叫ぶひばりの姿と、玲奈の姿を見て恐れ慄く母親の姿。そして、冷たい目で玲奈を見る信と彼に寄り添い、悲しげな目で玲奈を見つめる陽子の姿。

(どうしたの?どうしてそんな目で見るの?私に何が起きているの……?)

状況を理解できない玲奈は割れた鏡の破片に映る自分を見て驚愕する。

(何よこれ!!何よこれ!!!!)

鏡に映った自分を見て玲奈は悲鳴を上げた。それと同時に目を覚まし飛び起きる。
あまりにも生々しかった夢。玲奈は慌てて枕元の手鏡を手に取り自分の顔を見る。
手鏡には痣一つない自分の顔が映るだけだった。

(なんでこの日にまた夢がこんな気持ち悪いものなのよ!!勘弁してよ!!)

玲奈は苛立って壁に手鏡を投げつける。鏡は簡単に割れてしまった。

(大丈夫よ。だって私は龍神の巫女で花嫁になる女よ!!あんな大蛇に負けるわけないじゃない…!!)

龍神の巫女である自分なら大丈夫。これは正夢にならないと自分に何度も言い聞かせた。
だが、彼女は自分が龍神の花嫁になると豪言しているが、玲奈は何も分かっていなかった。
彼を真の名で呼ぶ陽子に対し、玲奈はずっと信のことを"龍神様"としか呼んでいない。信は名を教えていなかったのだ。
望みの薄い花嫁の願いを叶える為に悪夢に苛まれながら玲奈は更に罪に手を染め続けるのだった。