高校の卒業式。
 春の陽気が校庭を柔らかく照らしている。桜の花びらが、生徒たちの上を舞い踊る。そんな中、一人の少女、菜々子(ななこ)は静かに立っていた。
 彼女の隣には、ずっと思いを寄せてきた幼なじみの大地(だいち)がいる。しかし、大地の目は別の少女、美香(みか)に向けられていた。

「菜々子、高校生活楽しかった?」
 大地が笑顔で尋ねる。

「うん、とても楽しかったよ」
 と菜々子は微笑んだ。しかし、その微笑みの裏には切なさが隠れていた。

 大地は菜々子の本当の感情に気づかないまま、美香との会話に夢中になる。菜々子はそんな大地を静かに見守っていた。彼女は自分の気持ちを封じ込め、大地の幸せを願うことに決めていた。

 数年が経過し、菜々子は地元を離れ、都会で働き始めた。
 彼女は時折、大地のことを思い出すが、彼との連絡はほとんど取らなくなっていた。一方、大地は地元に残り、教師として働いていた。
 彼と美香は付き合い始め、幸せそうな日々を送っていた。

 ある日、菜々子は偶然、大地と再会する。
 彼は変わらず優しく、昔と変わらない笑顔を見せた。菜々子の心は再び動き始めたが、彼女はそれを隠し、友人として振る舞った。

「菜々子、君は変わらないね。懐かしいな、昔を思い出すよ。いつも一緒で、楽しかったな」
 と大地が言った。

 菜々子は心の中で、
「私の想いは、いつもあなたのそばに」
 と思いながら、ただ
「大地も変わらないね、元気だった?」
 と答えた。

 その夜、菜々子は一人で星空を見上げながら、大地の幸せを星に祈った。


 菜々子が都会で働き始めてから数ヶ月が経ったある日、彼女の同僚である健太(けんた)が彼女に近づきはじめる。
 健太は、菜々子が入社してからずっと彼女に心を寄せていた。彼はいつも明るく、誰とでもすぐに打ち解けるタイプだが、菜々子に対しては少し緊張しているように見えた。

「菜々子さん、今度の週末、一緒に映画を見に行きませんか?」
 健太が勇気を出して誘った。

 菜々子は少し驚いたが、
「いいですよ」
 と笑顔で答えた。
 内心では、大地がまだ心の中にいたが、健太との新しい出会いに期待を感じ始めていた。

 映画の後、二人は近くのカフェで話に花を咲かせた。健太は自然体で、菜々子も徐々に心を開いていった。健太は菜々子の笑顔に心を奪われ、彼女への想いをより強くしていた。

 その頃、大地は美香との関係に少し疑問を感じ始めていた。
 美香は大地に対してとても尽くしてくれたが、何かが足りないように感じてしまう。大地は自分の気持ちに戸惑いながらも、菜々子のことを思い出すことが増えていた。

 一方、菜々子は健太とのデートを重ねるうちに、彼に対する感情が少しずつ変化していくのを感じていた。しかし、彼女の心の中にはまだ大地の存在が大きく、自分の気持ちに確信を持てずにいた。

 ある夜、菜々子は健太とのデートを終えて家に帰る途中、星空を見上げた。
 彼女は星に願いをかける。
「私を導いてください」と。


 健太との日々を過ごす中で、菜々子は彼との関係が心地よいものになっていることに気づき始めていた。
 健太はいつも優しく、面白く、そして何よりも菜々子を大切に扱ってくれた。菜々子は健太と過ごす時間が自然と増え、彼の存在が日常の一部になっていた。

 一方、大地は教師としての日々の中で、自分の気持ちが揺れ動いていることに気付いていた。
 彼は美香との関係に満足しているはずだったが、心のどこかで菜々子のことを思い出すことが増えていた。菜々子の笑顔、彼女の優しさ、そして何よりも彼女がいつも自分のそばにいてくれたことが、大地の心に大きな影を落としていた。

 ある日、健太は菜々子にサプライズで小さなプレゼントを用意した。それは菜々子が前に欲しがっていた本だった。健太のこのような心遣いに、菜々子の心は温かくなった。

「健太くん、ありがとう。すごく嬉しいよ」
 と菜々子が笑顔で返した。

 健太は菜々子に心を奪われ、彼女への想いが日に日に強くなっていくことを感じていた。

 その頃、大地は美香とのデート中にもかかわらず、無意識のうちに菜々子のことを考えていた。美香はそれに気づき、大地に問いかけた。

「大地、どこか心ここにあらずみたいだけど、大丈夫?」

 大地ははっとし、美香に対して申し訳ない気持ちを抱えながら、
「大丈夫だよ」
 と答えたが、彼の声には迷いがあった。

 その夜、大地はひとりで考え込んだ。
 彼は美香に対して感謝と愛情を感じていたが、心の奥底では菜々子への特別な気持ちを否定できないでいた。彼は菜々子との思い出を振り返り、彼女がいつも自分を支え、愛情を与えてくていたことを思い出した。
 大地は自分の気持ちに正直になるべきなのではないかと思い始めていた。

 一方、菜々子は健太との関係に幸せを感じつつも、時々大地のことを思い出していた。彼女は大地への想いを断ち切ることができずにいたが、健太との今を大切にしようとしていた。

 ある週末、健太は菜々子をドライブに誘った。二人は海辺の美しい風景を眺めながら、未来について話した。健太は菜々子を本気で愛しはじめており、彼女との未来を真剣に考えていた。

 その夜、菜々子は星空を見上げ、心の中で大地への感謝と別れを告げた。
「大地、これでいいんだよね? 私も前に進むよ」と。