「ゆ、湯が出てきたぞ!?」
「いったいどこで沸かしているんだ、このお湯は?」

 地面の中で猪突猛進したベヒモスくん。
 火竜に乗って上空から方角を確認してから、その方角をルル経由で伝えると一直線に集落へと向かう穴を掘ったようだ。
 あっという間に集落まで温泉の通り道ができ、無事、温泉がやってきた!!
 そりゃもう、湯気がもんもん出るお湯が流れて来たもんだから、みんなビックリ。
 温泉を知らないから仕方ない。

 温泉は小川を挟んだ東側に出たから、風呂小屋まで引き込まなきゃなぁ。

 流れるお湯の量は思ったより多くはない。
 ドバァーっと出てきたらどうしようかと思ったが――

『湯が沸く量が多くないし、一日で沸くのと同じぐらいが流れるように穴の位置を調節したよ』
「賢いなぁ、ベヒモスくん」
『えっへん。だって大精霊だもん』

 ウリ坊の姿でふんすっと鼻を鳴らすと、けっこうかわいい。

「そうだ。火竜、ありがとう。明日は大地の木を植えるよ」
『ならば今日のところはゆっくり休むことだな』
「魔力はほとんど火竜にもらってたし、ぜんぜん疲れてないけどな。むしろ火竜がゆっくり休んでくれよ」
『あの程度の魔力、使ったうちに入らぬ。では我は行くとしよう。ここは狭い』

 狭いかぁ。確かに火竜には狭いよな。
 いつかアスにとっても狭いと感じる日がくるのだろうか。
 果たしてその時、俺は生きているのかどうか。





「では、参ります」
『ドキドキ』
『わくわく』
「"成長促進"」

 アスのおふくろさんが眠る場所で、大地の木を成長させる。
 桜の木を倒すといけないから、少し離れた、さらに一段上の高台に植えた。
 大地の木が墓標を、さらには俺たちが暮らす集落を見下ろす位置になる。
 ま、ここから集落はさすがに見えないけど。

 樹齢は三百年に設定。
 このぐらいから大地の木は、陽光で得た栄養分を周辺にお裾分けするんだ――とベヒモスくんが言うので、ここで止めておいた。

「常に晴天の砂漠だから、陽光には困らないだろうな」
「そうね。晴れ以外の天気なんて、みたことないもの」
『ちょっとちょっと。雨計画があるでしょっ』
「ん? あ、アクアディーネか。久しぶり」
『忘れてたでしょあんたたち!』

 そうだった。
 海水蒸発雲もくもく雨計画があったんだ。

「ですが毎日雨を降らせるわけではありませんものね」
『そりゃそうだけど……それで、海にはいつ行くの?』
「あぁ。近々また町に行くから、その時に海まで足を延ばす予定だ」

 町の傍まで砂船で行って、そこからは徒歩になる。
 素材の査定をギルドに頼んでから、待ってる間に海へ行こうと思う。
 
『そ。あっちに着いたらクラーケンに話をつけてあげるわ』
「よろしく頼むよ」
『えぇ。たぶん何かお願いされるだろうから、それはあんたたちが聞いてね』

 ……え?
 お、お願いをされる?

 そんなの聞いてないよ!





「ふぅ、なんとか間に合ったな」

 村へ出発する前日に、温泉を風呂小屋に引く作業が終わった。
 大きめに成長させさせた竹の、さらに太い部分だけを繋ぎ合わせて温泉を流す管に。
 おかげで大量の竹が余った。

「竹で何か作れればいいんだけどなぁ」

 思いつくのは竹を編んだカゴ、竹箸、竹とんぼ。
 だけど作り方なんて知らない。
 まぁ細い部分なんかは、節を利用してコップやお皿として使えたりはするけど。

 そうだ。集落にもカゴがあるじゃないか。

「ルーシェ、シェリル。ここで使ってるカゴは、手作りの物?」
「はい。ですが材料は物々交換したものです」
「トウっていう植物らしいの。私たちは素材として加工されたトウしか見たことないけど、細い管みたいなヤツよ」
「最後に購入したのは数年前ですが」

 カゴを編んだのも彼女らではなく、オーリのところの奥さんと、ダッツのところの奥さんらしい。
 竹を細く切り裂いたら、同じように編めないかな?
 二人に相談してみると、編むにはある程度しなやかにならないと無理だって。

 竹は……硬い。
 日本の職人さんはどうやって編んでたんだろうな。
 ほそーく裂くだけじゃダメなんだろうか。

 帰って来てから考えるとして、翌日は村へ向けて出発した。

「砂船の必要性って、あるんだろうか」
「複数人を運ぶなら、船に乗ってた方が楽なんじゃない?」
「船の方が持ち(・・)やすいでしょうしね」

 砂船は、空を飛んでいる。

『オジチャン、ビューン』
『童もそのうち飛べるようになる。翼がもう少し大きくなればな』
『ボクモ!? ヤッタァ』

 頼んでないのに火竜が来て、俺たちを砂船ごと抱えて飛んでくれた。
 たぶん、アスと一緒にいたいからだろうな。

「こ、これでまた町に行ったら、大騒ぎになるでしょうね」
「なるだろうなぁ」

 ルーシェの心配は、俺も同意見だ。
 前回の時に話はつけてあるとはいえ、阿鼻叫喚だろうなぁ。

『心配するな。当然、途中で下ろす。そこからは歩いていくがいい』

 俺たちの会話が聞こえたのか、火竜がそう言う。
 そしてあっという間に村へ到着し、そこで――

「ひええぇぇーっ!?」
「な、ななな、な、なんじゃこりゃあぁぁぁ」
「お終いだ。この村もお終いだぁぁぁーっ」

 こっちで阿鼻叫喚の光景が広がってしまった。
 村で火竜の存在を知っているのはハクトだけ……だったなぁ。