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――いやしかし。ちゅう秋は現場を見ていないだけではなく、彼等に会ったわけでも、絵を見たわけでもない。それなのにマサキくんを疑うのは間違っている。信じるべきはどう考えてもマサキくんのほうだ。

そう、わかっているのに。

「そこの老人たちは皆、痩せていたんじゃないか?」

「……よくわかるな、そんなこと」

「簡単だ。人は気を抜けば食事に気を配ることも忘れるものだからな」

――どうして。ちゅう秋の言葉は揺らがない。

「そ、そうだったとしても、流石にみんなじゃないぞ。そりゃあ、絵に関わってた人は全員そうだったが……それでも、呪いが関係しないとは限らないじゃないか」

「まあまあ、そう熱くなるな。これは私の直感と、君からの話を総合しただけの妄言みたいなものだ。――とはいえ、私のように頭蓋骨に皮がへばり付いているだけであるなら、以降お取り引きはないだろうけどな」

「その、取引というのは……」

「ふふ。無論、命に関わることだろうな」

そう言って笑うちゅう秋は、どこか愉しそうだった。

(……まさか全て当ててしまうなんてな)

マサキくんは自分の事を天才と称していたが、本物の天才は彼のような人間の事を言うのではないだろうか。……そんなことを思ってしまう時点で、僕はきっと凡人なのだろうが。

「まあでも、人命と絵画を天秤にかけるのは、私も感心しないがな」

「人命と、絵画を天秤に……」

「各々の美しさは似通ったものもあるが……完全に別個だろう」

彼の言葉に、僕はもう何も言うことが出来なかった。――完全に、見切られた。

(……やっぱり、こいつは凄い奴なんだな)

ちゅう秋の凄さに感心している中、不意にこの家の電話が着信を知らせる。家主であるちゅう秋が体を起こし、電話を取りに行くのを見送り、僕は長く息を吐いた。なんだか少し、疲れた。

このまま少し休憩をしようかと目を閉じれば、ちゅう秋が数言話したかと思うと、受話器を持ったまま戻って来た。

「疲れているところすまないな。君に電話だ」

「僕にか?」

「ああ。君の伴侶からだ」

彼の言葉に、僕は慌てて身を起こす。「ありがとう」と告げて、電話を取った。

「もしもし。急にどうしたんだい?」

「すみません、お楽しみのところ……その、先ほど荷物と文が届きまして」

「荷物と文?」

妻の声に、僕は頭を捻る。

(一体誰からだ?)

急に僕に荷物を送ってくる人間なんて、目の前にいる親友くらいしか思い当たらないんだが。

「送り主は誰だい?」