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「……君は何でも出来る癖に、相変わらず茶を淹れる能力だけは皆無だな」

「放っておいてくれ」

むすっとした顔をするちゅう秋。彼の数少ない人間染みた言動に、僕の文句を言う口も止まる。……あわよくば奥さんの美味い茶が飲めないかと画策していたが。これはこれで面白い。

ふっと笑みを零して、カップを煽る。相変わらずどう淹れたのかもわからないほど、不味い茶が喉を通っていく。……少し濁った、渋みのある水だと思えば、飲めないこともない。

「それにしても……君は本当に、面白いものに引っかかってくる」

「うん? どういう意味だい?」

クスクスと笑うちゅう秋に、僕は首を傾げる。顎に手を当てている彼は、まるで何かに気が付いたのか含みのある笑みを浮かべている。……その顔が多少不気味に見えるのは、彼には言わないでおこう。

「……何か気になることでもあるのかい?」

「ん? ああ、ちょっとね」

「?」

そういう彼は、やはり何かを隠しているようだ。

僕はそれが良いものなのか悪いものなのかを見定めるように、ちゅう秋をじっと見つめる。彼はその視線の意図に気が付いたのだろう。ふぅ、と息を吐くと静かに目を伏せた。

「……その老人たちは、『華絵 彼岸花』に気を吸われているのだと言っていたな」

「ああ。マサキくんが言っていたから、恐らくそうだと思うけど……それがどうしたんだ?」

「それにしては、随分と良心的だとは思わないかい?」

「良心的?」

ちゅう秋の言葉に、僕は更に首を傾げる。彼の言葉はまるで何かを心配するような、それでいてどこか投げやるような声で。

ますます彼の心中がわからなくなる。

(ちゅう秋が変なのは今に始まったことじゃないとはいえ、ここまで隠されるとどうも……)

僕は内心そう呟くと、ちゅう秋を伺い見る。彼の心中を知ることは出来なくとも、彼の口から説明を受けることは出来るだろう。そして、その目論見は見事的中した。

「……君の言う『華絵 彼岸花』の呪いだが、恐らくは本物の呪いなどではないだろうな」

「え?」

「話を聞いただけだから正式には言えないが、恐らく争奪戦で燃え尽きた老人たちが気を緩めたんだろう。それが彼等の死に直結した」

「気を緩めた? そんなことで死ぬっていうのか?」

「“病は気から”と言うだろう」

彼の言い分に、僕は反論をしようとした口を閉ざした。

(……つまり、マサキくんの見立ては間違っていて、本当は単なる事故が重なった結果だとでもいうのか……?)