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もちろん、僕だって話を書いている人間のはしくれだ。合ったことを時系列に話しても何の面白みもないだろう。多少話を大袈裟に語ったり、起きた出来事を盛ったりもしたが……しかし、そんなことをしなくても元々濃ゆい時間は、どうやら親友の耳を満足させるには十分だったらしい。

ちゅう秋は楽しそうに僕の話を聞き終えると、その肩を震わせた。

「君は本当に面白いことばかりに巻き込まれてくるな」

「そう言わないでくれ。こっちは余計な出費も嵩んで大変だったんだから」

「それは災難だったな。だが――そういう割に筆は随分と進んでいるようだが?」

にやりと笑みを浮かべるちゅう秋に、僕は苦笑いを浮かべる。

彼にはどこまでもお見通しだったらしい。

「まあね。つまらないだけの旅行ではなかったから」

「それはよかった。君の心も、どうやら禊が終わったらしいし、一件落着じゃないか」

「お前がそういうと、何だか怖いものがあるな」

「ひどいな。私は嘘は吐かないぞ」

茶を啜るちゅう秋に、僕は「そういうことじゃないんだが」と反論しようとして、やめる。どうせ言ったところで彼自身、元から気にしていないのだから、訂正する必要もないだろう。

僕はそう思い直すと、いつものカップに注がれた茶を煽る。――途端、いつもと違う味にごふっと噴き出した。

「ブハッ! ゲホゲホッ! な、なんだ、この茶の味は……!」

「やはりだめだったか」

「駄目ってなんだ! というか、茶というより水じゃないか!」

それなのに渋いし、えぐみだけがしっかりと出ている。よく見れば茶葉自体も一緒に入っているし……。

(これは最早茶なのか……!?)

色を見た時から気にはなっていたが、そういう種類のものだと思っていた。しかし、どうやらそういう事ではないらしい。

ちゅう秋を見れば、彼は相も変わらずニコニコと笑みを浮かべている。胡散臭い、他人行儀の笑顔だ。

「……そういえば、君の奥さんの姿が見えないが、まさか」

「ああ、君の言う通りだ。妻はまだ実家に居てね。その茶は私が淹れた。他人の家のものにケチを付けるのは良くないことくらい、君も理解しているだろう? 我慢してくれ」

「……お前、それを言って釘を刺すために黙っていただろう」

「はて、何のことかな」

にこにこと。なんの悪びれもなく笑みを浮かべたままそう告げる彼に、僕はもうため息を吐くしかなかった。

(これはもう、罠にかかった僕が悪いな)

僕は薄い茶の入ったカップをくるりと揺らすと、深々と溜息を吐く。