05

左肩に乗っていたちうは、彼の行動に居心地悪そうにしたが、すぐに定位置を見つけそこに居座る。

「それにしても、まさか海鮮が残っているなんて! 僕たちは最高に運が良かった! なあ、ちう」

「ちゃっちゃるん!」

「そうだろうそうだろう! あのまま家で夕食を摂っていたら、こんな思いもできなかっただろう!」

マサキは自身の手柄を見せびらかすように両手を広げる。……面倒くさがりな面が多大に影響しただけだというのに、その顔は自信満々である。ちうはそんな彼を見て「ちうー!」と鳴いた。意味はわからなかったものの、マサキの言葉に同意しているのだということは何となく伝わった。

九官鳥を肩に乗せ、再び桜並木を歩くマサキ。そんな彼等をすれ違う恋人同士らしい男女や友人らしき女性たちが、微笑ましそうに眺めていく。人と仲のいい九官鳥の姿というものは、目を惹く愛らしさを持っている。

しかし、ちうの正体はただの九官鳥ではないことを、世の中の人間は知らない。彼が生きた式神であることも、本当の彼はもうすでにこの世にはいないことも。世の中の人間は誰も知らない。



――ちうはマサキの唯一の友達であった、今は亡き九官鳥への思いが隔離したものであった。……簡単に言ってしまえば、亡霊だ。生きた、亡霊。

マサキ自身もそれを知っており、己の力のお陰であることを理解している。その上で、彼は今もちうを相棒として傍に置いているのだ。それほどまでに、マサキにとってその九官鳥との思い出は根深く、清らかで、恐ろしいほど強い絆となっていた。

ちうが見えない人間をマサキは相手にしないし、ちうを見ることのできる人間にマサキは驚くほど馴れ馴れしく接する。あまりにもあからさまな態度を取るものだから、マサキはどこに行っても腫物扱いだった。

「それにしても、ラーメン屋でクラシックはねーよなあ」

「ちう?」

「ああそうか。お前はヴァイオリンが大好きだったっけなあ」

マサキはそう笑うと、脳裏を過る記憶を見る。

――ヴァイオリンの音に合わせて体を震わせる、小さな友達。知り合いの九官鳥よりもちょっと目の小さい彼は一体どこで覚えたのか、ヴァイオリンの音を聞くなり「こーこーつうろまっとうや、まっとうやとうてろひろ」なんて意味の分からない言葉を呟きながら、音楽に乗せて踊るのだ。その度、止まり木から何度落ちそうになったことか。

今思えば可愛らしい癖のようなものも、当時は「あほだなぁ」とマサキは思っていた。