「あ、ああ……どうしようどうしよう、ごめんなさいごめんなさい」

 顔じゅうに絶望を広げた彼女は、しゃがみ込んで必死に硬貨を拾い集めた。

 あくせくする指の間をすり抜ける10円玉。すぐさま助けに駆けつけた映画館のスタッフに、「ごめんなさいごめんなさい」と首がもげそうなくらい頭を下げる。

 いくらなんでも、そこまで謝らなくても。

 拾い集めた硬貨を差し出すと、彼女は消え入りそうな声で謝った。

「ごめんなさい。恥ずかしい思いをさせてしまって」

「平気です。それより、映画がはじまるので行きましょう」

「……はい」

 シアターに向かう途中、彼女は段差も障害物もないところで躓いては顔を赤らめ、やっぱり「ごめんなさいごめんなさい」と執拗に謝った。

 レンタル終了まで、あと何回謝られるだろう。

 そもそも妹は、どういうつもりで彼女をレンタルしたのだろう。次のデートに活かせということか、それとも気分転換しろということか。

 人間関係を築くことは、昔から苦手だった。とくに対異性となると壊滅的だった。

 頭にぶわっと血がのぼって、言葉が出てこない。どうにか話してみても、あの一言は余計だったかもしれない、つまらない話をして相手を退屈させたかもしれない、と悔やむばかりだった。

 自分はなにか、人より欠けているのだろう。

 そう思うたび、しんしんと雪のような想いが降り積もる。

 欠けているものの正体も、どうしたらそれが手に入れられるのかもわからないまま、さらさらと時間だけが流れていく。