「あの、緊張しないで大丈夫ですよ」

 そういう自分だって緊張していた。だけど彼女がひどく緊張しているせいか、彼女を気遣える程度には余裕があった。彼女の瞳がぶわりと膨らむ。

「ごめんなさい」

 真っ赤な顔をうつむかせ、彼女が言った。その様子に、なんだか悪いことをしてしまったような居たたまれなさと、かすかな苛立ちがこみ上げた。

 こんな状態で四時まで持つだろうか。妹が選んだのは『どきどき☆初回お試し三時間コース』だった。

 ずっしりとした不安を抱えながら繁華街を歩き、救いを求めるように映画館に入った。これで一時間半は稼げる。

 映画はどれも満席で、選択肢はラブコメと子ども向けのアニメしか残されていなかった。知らない俳優ばかりであまり興味はないけれど、仕方なくラブコメ映画のチケットを買って彼女に渡した。

「ありがとうございます。いくらでしたか」

 財布を開いた彼女が尋ねる。

「え? いいですよ、お金は」

「いえいえ、そういうわけには」

「こういうのは、こっちが払うものじゃないですか? 妹が勝手にレンタルを申し込んだので、システムのことはよく知らないですけど」

「あ、そうか。そうですね。あっ!」

 その瞬間、彼女の手から財布が滑り落ちた。

 無残な音を響かせ、ぴかぴかに磨かれたフロアに無数の硬貨が転がっていく。周囲の人びとから浴びせられる視線は容赦なく痛い。