「どうかしましたか」

 彼女がおずおずと訊いた。

「あっ、いえ」

「お待たせしてすいません」

「いえ、時間通りです」

「私の方が先に着くべきなのに、失礼しました」

「そんなことは」

「いえいえ、私が」

 ぺこぺこと頭を下げてからふたたび顔を見合わせると、奇妙に重い沈黙がおとずれた。

 忙しなく行き交う人びと。繰り返される人工的なアナウンス。駅特有のぬっとりとした空気が肌にまとわりつく。

 こういうことはまったく得意じゃない。それでもこの沈黙に耐えきれず

「あの、とりあえず、歩きませんか?」

 そう切り出すと、彼女は緊張した面持ちで小さく頷いた。

 あてもなく歩きながら、彼女との距離を探りつつ尋ねる。

「どこ行きましょうか。行きたいところとか、ありますか?」

「いえ。つばささんは?」

「いえ。とくには」

 会話終了。沈黙がさらに重くなる。できるものならいますぐ逃げだしたい。会ってみたいなんて思うんじゃなかった、と後悔していると