そわそわしてまったく落ち着かない。まだ春先だというのに、前髪の生え際にはぽつぽつと汗が浮かんできた。時計の針は乱れることなくカウントダウンを刻む。心臓が、痛い。

「あ、あの、すいません。つばささん、ですよね?」

 遠慮がちな問いかけに振り返ると、緊張した面持ちの彼女が立っていた。

 ほんとうに、レンタルしたんだ。

 急速に実感がこみ上げる。立ちすくんだままいると、彼女は不安げに眉を下げた。

 返事を。なにか返事をしなくては。

「は、はい。つばさです。はじめまして」

「こちらこそ、はじめまして」

 ふたりで同時に頭を下げた。わずかに冷静さを取り戻して、頭を上げながら彼女の爪先から頭の先までをさあっと眺めた。

 どんなものだろう――と思っていた彼女は、可もなく不可もなく、しいて言えば暗かった。顔や服装ではなく、雰囲気そのものが。

 どばどばと溢れ出る負のにおいが、彼女を鬱蒼と取り囲んでいる。