彼女は両手にぎゅっと力を込めた。

 ふたりぶんになった体温が、あたたかく心地いい。どれだけ春を迎えても、けっして溶けることのなかった私の雪が、ゆっくりゆっくりと溶けだし、あふれる。

「そ……そんなにおどおどしなくていいし、笑った顔だって、私が思ってたよりも悪くはないし……。もう少し、胸を張ってもいいと思う……よ?」

 言葉にするほどに上昇する体温。春を跳びこえて夏に降り立ったように、ふつふつと身体が火照る。

「どうして半疑問系なんですか」

 くすくす笑いながら、彼女は私と同じ腕で私をめいっぱい抱きしめた。

 頬をくすぐる髪、立ち昇る春の香り、よくできましたと花丸をつけるように頭を撫でる手。たおやかに、私は私を抱きしめた。あますことなく、どこまでも抱きしめた。


 またのご利用を――。


 瞼をひらくと彼女の姿はすっかり消えて、ぬくもりだけが後に残った。

 もしかしたら、そんなに悪くないのかもしれない。

 確かめるようにゆっくり瞼をおろして、強くまばたきした。潤んでいる瞳に映る景色はそれまでとなにも変わらない。変わらないけれど、きっと同じでもない。

 手のひらですっかりぬるくなった飴玉を舌のうえで転がしながら、私はデパートへ向かった。

 歩きだしたくてたまらなくなるような、私の靴を探しに。






 ――了――