「……ノート」

 ふいに、明希が呟いた。

「ノート?」

「俺の英語のノート渡すから、宿題の答え書いてきてよ。で、明日の授業までにノート返して」

「宿題って……。よくわからないんだけど、わたしより明希の方が英語出来るよね?
 いや、英語だけじゃなくて全般的に、だけど」

 明希はいつだってクラスで上位の成績だった。

 誰よりも明るく染めた髪に、ゆるく着崩した制服。
 そうは見えないけれど、じつはけっこう真面目な奴、というのが明希の印象だった。

「そうだけどさ。あ、小春ちゃんも俺になんか宿題やらせていいよ。数学でも化学でも、なんでも」

 どうしてわたしに英語の宿題をやらせて、自分も宿題を引き受けるのだろう。
 それこそ明希にメリットはない。むしろデメリットだ。

「やっぱりよくわからないんだけど、宿題やってくれば黙っててくれるってこと?」

「うん。あと明日の放課後、どっか行こ」

「えっと、それは……なんで?」

 訊ねると、明希は大きくため息をついた。
 わかってないなあ、と言うように大袈裟に肩を(すく)める。