「じゃあ、行きましょか」

 そう言って差し出された手を、わたしはきゅっと握った。
 明希の目がまん丸くなる。

「すごいじゃん。小春ちゃんがこうやって握ってくれたの、はじめて」

「これは……。なんていうか、条件反射っていうか、その」

 ごにょごにょ言っていると、まん丸だった明希の目がそっと微笑んだ。

「これならもう大丈夫だね」

「大丈夫って?」

「いつ本番のデートがあっても、大丈夫ってこと」

 大丈夫。
 安心するはずの言葉に、なぜか痛みが走る。

 紙で切れた指先のように、見えない傷口からじわっと赤が滲む。

「動物園なんて、俺いつぶりだろう」

「ね。わたしもすごいひさしぶり。カワウソいるかな」

「いるいる。ユーラシアカワウソとコツメカワウソが」

「よく知ってるね。明希って、そんなに動物好きだったんだ?」

「あ、うん。まあね」

 もしかして、調べてきたのだろうか。
 考えていると、目の前はもう動物園のゲートだった。