落ち込んでいると、明希はとつぜん噴き出した。わたしの憂鬱を蹴飛ばすように、大きな口で笑う。

「ちょっと、なんで急に笑ってるの?」

「だって小春ちゃん、顔に出過ぎ。大丈夫、佐野はいつもぼーっとしてるから。そういうの気にしてないって」

「そうかな……」

「平気だって。楽しいことがあるのは、いいことじゃん」

 それなら明希は、いいことだらけだ。
 明希はいつだって楽しそうに笑ってる。箸が転がっても、体育祭でリレーのアンカーを押しつけられても、購買でパンが売り切れてなにも買えなくても、とにかく楽しそうに笑ってる。

 もはや明希のデフォルトは、笑顔なんじゃないかと思う。

「相手が佐野じゃなくて悪いけど、予行練習ってことでさ。させてよ、カップルっぽいこと。それに、ぶっつけ本番が好きな奴ってこわくない? 緊張で失敗しそうじゃん。大丈夫大丈夫。さすがにチュウとかしないから。ちょっと彼氏っぽいこと、してみたいだけだから」

 チュウと言われ、反射的に目の前の唇に目がいった。