ふらつきながら立ち上がり、芳賀の手元を覗き込んだ。
不規則なリズムで刻まれていくハムは、形も不規則だった。

「せっちゃんは座ってていいよ」

「芳賀の料理の腕が信用できなくて」

「味噌ラーメンくらいつくれるわ」

本当かよ。
ハムを二度見してクッションに座り直す。

芳賀は「ああ、殻が」だとか「あっ、やべっ」だとか言いながら味噌ラーメンをつくった。
ポジティブなワードがまったくない。

小さな折り畳みテーブルで向き合い、いただきます、と同時に手を合わせた。

どこかにあるはずの七味は結局見つからず、麺は茹で時間を超過したのか、やわやわしていた。
噛むたびに奥歯がねっちりとする。
けれど玉子はふわふわで、とてもやさしい。
不規則な形のハムもかわいい気がする。

目が合って笑う芳賀の右の八重歯は、もう憎たらしくはない。

「もう一本、チューハイもらってもいい?」

「いいけど、顔赤いよ?」

「そりゃお酒飲んでるんだから赤くなるよ」

「そうじゃなくて」

「大丈夫大丈夫。酔ってない酔ってない」

(いぶか)しげな顔で立ち上がり、芳賀は冷蔵庫から二本目のチューハイを出した。
その拍子でなにが落下し、べこりと跳ねる。