「そういえば高校のときにさ、ナツミもせっちゃんに片思いしてるって言ってた」

「ナツミが、わたしに?」

「もっと仲良くなりたいけど、壁を感じるんだってさ。
ナツミって、せっちゃんが思ってるよりもずっと、せっちゃんが好きなんだよ」

「……知らなかった」

芳賀に想われているナツミに、嫉妬をすることは何度もあった。
でも、壁をつくっているつもりなんてなかった。
連絡がくれば返事を返し、ナツミが芳賀に会いに来れば、笑顔で一緒にご飯を食べにいった。

それでも――考えてみれば連絡をするのは、いつだってナツミからだった。

御子柴くんにも、他の友達にも、知り合いにもそうだ。
わたしは受け身ばかりで、自分からはなにも発していなかった。

気持ちを伝える言葉も、それを伝える(すべ)も知ってるのに。

言葉にしないでも伝わることはある。
けれど、胸のなかに閉じ込めていたら伝わらないことだってある。

「おれ、余計なこと言っちゃったかな」

俯いて歩くわたしに芳賀が言った。
二つの影が重なる。

「距離の取り方も捉え方も、人それぞれだからさ。
せっちゃんが心苦しく思うことはないよ」

「そうかな……」

「そうだよ。でも、せっちゃんからもう少しナツミに連絡したら、きっと喜ぶと思う」

「うん、そうしてみる」

顔を上げると、三角形に浮かんだ小さな星が微かに光った。

小さくて頼りない光は、すぐさま暗闇に吸い込まれてしまう。

それでも、どの星も輝こうとしている。

「まだお腹はいる?」

芳賀はコンビニの袋から三つ目のアイスを取り出し、半分を差し出した。
わたしはそれをしっかりと受け取った。






―― 了 ――