「なんであいつをかばうんだよ」

「別にかばってるわけじゃないよ。事実を言っただけ」

「イケメンにいい奴はいない」

「はい出た。イケメン差別」

「そうだ、せっちゃん。うち飛び出す前にひどい言い間違いしたよね。
濁点つけるとこ間違えないでくれない?」

「濁点?」

「おれはばかじゃなくて芳賀(はが)だから」

「ばかだ」

「芳賀だってば」

「ばかだよ」

アパートまでの一本道。

仲直りした芳賀とわたしは、おもしろくもないことで笑い合う。
そうしているうちに、おもしろくもないことは、すごくおもしろいことになる。

ナチュラルハイになった芳賀とわたしは、ある意味とても健康的で、ある意味とても幼いのかもしれない。

こんなに笑えるのなら、ずっと幼いままでいい。
この夜が、この道が、ずっと続いていればいい。

すれ違ったカップルは、全身で笑う芳賀とわたしを上から下までじろじろと眺めた。

「お前のせいで見られたじゃん」

同時にそう言って、また笑う。

すごくすごくくだらない。
すごくすごくたのしい。