「今夜、会えてよかったです」

急にピンとした顔で言われ、慌てて「わたしも」と返す。
声が裏返ってしまった。

「おやすみなさい、節子さん」

久しぶりに言われたおやすみなさいは、これまでとは違うかたちで胸に響いた。
なにがどう違うのかはよくわからないけれど、悪いものではない。

何度かわたしの方を振り返りながら、猫背気味の背中は薄闇に溶けていった。

今度会ったら、背筋をのばすように言おう。
あの姿勢はもったいない。

「せっちゃん、なんか買って帰ろ」

「あ、はい」

「俺にまで敬語? せっちゃんに敬語は似合わないって」

いつものように八重歯を見せて笑われ、わたしもいつものように笑ってみせる。
コンビニのカゴには菓子パンやらジュースやら放り込まれていく。

「深夜のコンビニって、なんでこんなにわくわくするんだろう」

二人して同時に同じことを言って、同時に吹き出した。
この会話をこれまで何度しただろう。

「せっちゃんも、食べたいもんあったらカゴに入れなさい。おじさんが買ってあげるから」

冗談めかして言われても、カゴの中にはすでにわたしのお気に入りばかりが入っている。
わたしが高校時代からずっと好きなもの。
これが偶然だとしたら、あまりにも偶然が重なり過ぎている。

そう思いながらりんごのヨーグルトをカゴに入れた。

これは、芳賀のお気に入り。