首筋や脇から流れる汗はグレーのティーシャツに大きな染みをつくり、背を向けられる前に見た重たい前髪は、汗でぺたんこだった。

どれだけわたしを探し回っただろう。
どれだけわたしを心配しただろう。

芳賀のなかにわたしのことだけを考えてくれた時間があった。

男女の友情だろうと、なんだろうと、それは変わらない事実。

「……ごめん、御子柴くん。わたし、動物園には行けない」

ほんの一瞬、薄茶色の瞳は小さくなり、影を帯びた。

「そうですか。残念」

御子柴くんはにこちゃんマークみたいな顔で言った。

気持ちが溢れでちゃう御子柴くん。
けれど、相手を気遣うやさしい嘘は上手につける。

哀しいくらい、上手に。

「あの、動物園には行けないけど、だけど……」

「だけど?」

「いろいろ検討します」

「それは俺にとっていい方向の検討ですか」

「検討します、としか言えません」

「なんで急に敬語になってるんですか」

「御子柴くんが敬語だから?」

「半疑問形で言われても」

くしゃっと笑う御子柴くん。
丸めたティッシュを思い出す。
日焼けしない体質なのか、肌の色もよく似ている。