「夜中に飛び出すってなに考えてるの? せっちゃん女の子なんだよ?
危機感なさ過ぎ。事件に巻き込まれるとか、そういうことだってあるかもしれないのに。
そりゃ……おれも大きい声出したりして悪かったけど……」

徐々にボリュームダウンしていく声。
富士山の唇の先が少し尖り、わたしは言葉を失う。

風が草木をゆるやかに撫で、葉の重なり合う音だけが聞こえた。

「――俺、帰りますね」

御子柴くんは抑揚なく言った。
わたしにニッと笑いかける。

「節子さん、今度は動物園いきましょう。
来週とかどうですか。
カピバラが見たいって言ってましたよね」

「あ、うん。カピバラ見たい」

わたしが答えると、芳賀は御子柴くんとわたしに背を向けた。
気を利かせたのか、まだ怒っているのか、その背中からはわからない。

「あと、早く気持ちを言ってくださいね。いつでも待ってますから」

「それは」

「は、や、く、言ってください」

御子柴くんの薄茶色の瞳が、芳賀の方に動く。
どうしてこんなに勘がいいの。
つられたわたしも、芳賀の方を見る。