「大丈夫?! そいつに、なんかされた?!」

炎を宿した瞳が、御子柴くんとわたしを交互に見る。
この瞳によく似た瞳を、わたしは知っている。

ヤリチン事件のときの瞳だ。

「待って待って。芳賀、なにか勘違いしてない?
なにもされてないよ。御子柴くんとは偶然会って話してただけ。
ね、御子柴くん?」

「はい。なにもしてないですよ」

――今日はね。
御子柴くんはわたしだけに聞こえるくらいの声で言って、いたずらに微笑む。

「え、知り合いなの? びっくりしたー。てっきり知らない人に絡まれて泣いてるのかと思った。
俺の寿命縮まったわー」

へらっと笑い、固い拳がゆるゆるとほぐれていく。

「御子柴くん、だっけ? 突然怒鳴ってすいませんでした」

「いえ。気にしてませんから」

四十五度でお辞儀する芳賀に、やわらかな物腰で御子柴くんは返した。

芳賀と話す御子柴くん。
御子柴くんと話す芳賀。

どちらを見ても落ち着かない。

「せっちゃん」

くるりと向き直った芳賀が、わたしを睨みつける。
さっきまでのへらっとした顔は微塵もない。