声のする方を見た。
心臓が止まる。

「御子柴くん……」

「よかった。違う人だったらナンパみたいになっちゃってました」

カラッとした笑顔で御子柴くんは言った。
まるで御子柴くんとわたしの間になにもなかったかのように。

「買い物ですか?」

「あ、いや、お財布ない」

「財布持たずにコンビニ来たんですか? 誰かと一緒ですか?」

「……ひとり」

「なにしてるんですか。女の人がこんな時間に一人で出掛けちゃ危ないですよ」

「御子柴くんはどうしたの?」

御子柴くんは実家暮らしでもっと郊外の方に住んでいたはずだ。
確か、電車がよく遅延するナントカ線。
話してくれたことをちゃんと覚えていない自分に嫌気がさす。

「いま友達と集まってて、ジャンケンで負けたんで買い出しにきたんです。
友達のところ行く前に節子さんのアパートにも寄ったんですけど……」

「ごめん、今日はずっと出掛けてた」

「そうだったんですか」

「うん……」

口ごもり、視線を落とした。

誰かが落としてしまった溶けかけのバニラアイス。
先が剝げてしまった赤いペディキュア。
走ってコンビニまで来たせいか指の間が砂っぽい。