「おれ、バイトで疲れちゃったから、もう寝てもいい?
せっちゃんがまだ起きていたかったら、電気はつけたままにするからさ」

「わたしも寝るよ」

もう少しだけ話したい、なんて我が儘は言えない。
彼女という立場のナツミだったら、きっと甘えた声でかわいく言えるだろうけれど。

芳賀は薄手のブランケット二枚と大きなバスタオルを用意した。
バスタオルは床に放り投げられ、ブランケットを差し出される。

「替えのシーツとかないから一枚ベッドに敷いて、もう一枚は掛け布団にして」

「わたしがベッドで寝るってこと?」

戸惑うわたしをよそに、芳賀は床にバスタオルを広げ、その上にクッションを置いて寝床をつくった。
そんなの背中が痛くなるに決まっている。

「わたしが床で寝るよ。急に来たのはこっちだし」

「せっちゃんを床に寝かせられないよ」

笑顔でそんなこと言わないで。
彼女の友達だからってやさしくしないで。

チクリとしたり、きゅうっとしたり。
芳賀の前では、わたしの胸は(せわ)しない。


灯りが消された暗闇のなか、目を瞑るとベッドからは芳賀の匂いがした。