男の子の手。
寄りかかりたくなってしまう手。

見上げれば笑いかけてくれる唇は、何度もうれしそうにわたしの名前を口にした。


この人といたら苦しくならないですむ。
惨めにならないですむ。
歯痒くも、切なくもならないですむ。

そう、思ったのに。

うまくいくと思ったのに。

「せっちゃんすごいね。あんな冷たいシャワー浴びたの?」

タオルでわしわしと髪を乾かしながら芳賀が言う。

ほんのり紅潮した頬。水滴を滴らせる髪。

その姿に、わたしの血液は沸騰しながら、ぎゅんぎゅんと全身を駆け巡る。
芳賀といると、わたしの身体の内側はうるさくなる。

素直にも、程がある。

「わたしも驚いたよ。芳賀って、夏でも四十度のシャワー浴びるんだね」

「暑いときこそ熱いシャワーじゃない?」

「その理屈だと冬は冷たいシャワー浴びるってこと?」

「それは勘弁」

芳賀は冷蔵庫からジャスミンティーのペットボトルを取り出すと、喉仏を上下させて一気に飲み干した。
ふわり、花の香りが漂う。
ナツミの顔がちらつく。