「Tシャツは俺のだけど洗ったばかりだから。
まだ一回しか着てないし、うちにある服のなかで一番きれい」

「気にしないよ。男女の友情でしょ?」

そんなもの、わたしはこれっぽっちも抱いてないけれど。
抱かれたいとも思っていないけれど。

心のなかで毒づきながら、わたしはにこりと笑ってみせる。

嘘を吐くときって、どうして笑顔になってしまうんだろう。
芳賀のおかげで、わたしの嘘は日に日にレベルアップしている。



両手を広げるのがやっとのユニットバスで、メイクを落として汗を流した。

けっこうちゃんとしたシャンプー使ってるんだな。
でもトリートメントはないんだな。
なんて、いちいち思う。
浴槽の端に無造作に置かれた剃刀を見て、男なんだなとドキリとするのは、さすがに重症だろうか。

連絡もなしに家に来て、チューハイを二本飲んで、ラーメンを食べて、シャワーを貸せと言う女に、嫌な顔ひとつしない芳賀。

芳賀が、もっといやな奴だったらよかった。

そしたら「友達の彼氏」として気持ちを切り替えることが出来た。
ここまで引きずらないでいられた。

どうしたら芳賀はいやな奴になってくれるんだろう。