「せっちゃんさ、音痴だなーって、いま思ってたでしょ」

「思ってない思ってない」

「せっちゃんは嘘がへただなぁ」

口元がゆるむ。
まいったな。
考えていることが当てられるだけでうれしい。

でも

わたし、高校生の頃よりも嘘はうまくなったよ。
隠すことはうまいよ。

だって芳賀はわたしの視線に三年も気づいていない。

高校の頃よりもずいぶんと分厚くて、ずいぶんと広くなった背中。
さっき触れた小指はわたしの薬指くらいあった。

変わっていないのは嫌味なくらいすっきりした鼻筋と、ほんのり香るお日さまみたいな、柔軟剤みたいな、やわらかな匂い。
芳賀の匂いは他の男の子と違って、嫌だと思ったことはなかった。


だけど、どれもこれもナツミのもの。


つめたいグラスに指先から熱を奪われ、おもしろくないお笑い番組の笑い声を聞いているうちに、さらさらと酔いが冷めていく。

ここに、宇宙人でも来ないかな。
そしたらきっと、わたしの痛みだって少しは薄まる。