「男が、いたの」

「は? ストーカー?」

見開かれた大きな瞳に引き込まれそうになりながら、わたしは首を横に振る。

「違うよ、ストーカーじゃないよ。彼氏の三歩手前みたいだった人」

「彼氏の三歩手前とは?」

「何度か一緒にご飯に行って、映画を見て……手を繋いでアパートまで送ってくれた」

「それデートじゃん。
三歩手前どころか一歩手前……ほぼ彼氏じゃん。
せっちゃんにそんな人いたんだ。
言ってくれてもよかったのに」

ケロッとした顔で芳賀は言った。

芳賀もナツミも、いつもこうだ。
ナチュラルにわたしを絶望に突き落とす。

「とにかくまぁ、その三歩手前くんがアパートの前にいたわけ。
で、アパートに帰れなくなっちゃった」

「なんで? 急に来たのがいやってこと?」

「そうじゃなくて。
この前キスされそうになって()けて、それからずっと連絡きても返してないっていうか、メッセージを見てなくて」

「無視してるってこと?」

「だって……」

「キスを避けたってことは、三歩手前くんのこと好きじゃないの?」

問いかけに、わたしはこくんと頷く。