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 青木は特に目立つタイプの男子ではなかったと思う。話し上手じゃなかったし、見かけも目を引くほどかっこいいとは思わなかった。
 ただ、休み時間のたびに多くの男子に囲まれて談笑する青木の姿は、あたしの目を引いた。青木は話題の中心になっているよりか、笑いながら相槌を打っているほうが多かった。

 何を話してるんだろう。楽しそう。

 青木はよく笑う男子だった。青木の心から楽しげな明るい笑顔は、見ているこちらまで嬉しくなる、まるで快晴の空を思わせるような眩しさがあった。

 あたしには、青木の笑顔が特別輝いて見えた。

 いつのまにか、あたしの視界に青木の姿が入ることが多くなっていった。

 自分も青木のいる男子たちの輪の中に入れたらどんなに楽しいだろう。もっと近くで青木の笑顔を見たい。
 そう思うのに、あたしは青木のそばに近寄ることができなかった。

 小学生のときのあたしだったら、間違いなくあの輪の中に「仲間」として入ったはずだ。

 中学校に入る前、あたしは女子ではなく男子と一緒に遊んでいるような子供だった。男の子のする遊びの方が楽しかった。
 あたし自身が、男子のグループにいるほうが楽だったし、男子もあたしを女子として見ないで「仲間」として受け入れいて、あたしは男子と同じ扱いをされていた。

 いつも家に連れてくる友だちが男子だったから、母はとても心配していたけれど、そんなことはあたしにとってはどうでもよかった。女子がいくつかのグループを作り、グループの違う女子同士が小競り合いをして、誰がどのグループに属しているのかばかりを気にしているのにうんざりしたし、くだらないと思った。女子たちはどこに行くにも一緒。なのに数日後には違うグループに変わっていて、相手を悪く言うようなことばかり。そんなものが友だちだとは思えなかった。
 その点男子は単純なように見えた。気が合うもの同士で日が暮れるまで遊ぶ。陰でこそこそ相手の悪口を言うこともない。あたしには向いていた。

 けれど。

 あたしは自分の着ているセーラー服を忌々しげに見た。

 きっとこれが悪いんだ。

 中学生になり、それまでほとんどスカートなんてはいたことのなかったあたしも、毎日セーラー服を着なくてはならなくなった。

 セーラー服は女子である目印だと思う。

 似合わないセーラー服を着たあたしに対して、男子は急に態度を変えた。もう彼らは「仲間」としてあたしを見てくれていないのが解った。あたしは彼らの輪の中に入れなくなった。

「立野は女だろ」

 男子に話しかけると他の男子に冷やかされることもあった。

 悲しかった。悔しかった。

 「仲間」だと思っていたのに、本当は違ったの? 今までと何が違うの? あたしは変わってないのに……!

 男子の輪の中に入れなくなったあたし。かと言って急に女子の中に入ることもできなかった。
 
 あたしはあぶれてしまった。

 本当はもっと近くで青木を知りたい。友達になりたい。話してみたい。
 でもあたしはきっとあの輪の中には入れてもらえない。
 それはやっぱり悲しくて悔しいことだった。